リクルートは、多種多様なフェーズの事業を、デザインの力でより良い方向へ進めるために、デザインマネジメントの推進に取り組んでいます。
そして、その姿勢を「動かすデザイン」というデザインフィロソフィーとしてまとめています。
例えば事業フェーズや目的次第で、柔軟に、かつ自律的にデザインディレクター(リクルートにおけるデザイン職種の総称) が以下のような活動を提案しながら進めています。
プロトタイピングを繰り返して仮説検証サイクルを回し、プロダクト立ち上げを早める
現場調査を行いながらユーザーインサイトを回収し、事業判断を支える
プロダクトのブランドリニューアルを推進する
デザイナーの評価指標を設計したり、育成・アサインプロセスを整備する
など
なぜリクルートがデザインマネジメントに取り組んでいるのか、具体的に行っている活動についてまとめていきます。
デザインマネジメントユニットは、リクルートのさまざまな事業におけるデザインを統括する横断組織です。
リクルートの事業全体にまたがるデザイン機能の保持を目的に、2019年デザインマネジメントユニットの前身となる、横断デザイン組織を立ち上げました。
初めは7名から始まった横断組織は、2021年には一グループから37名のデザインマネジメント部への拡大、その後2023年には2部、80名以上が所属する「デザインマネジメントユニット」として組織成長を続けています。各メンバーは事業組織を兼任しながら、横断的なデザイン組織としての役割に取り組んでいます。
リクルートで、デザインマネジメントという言葉を使っている理由は大きく2つあります。
多種多様な事業状況に即した価値貢献を行う
デザイナーが価値を発揮できる範囲を限定しない
リクルートにはフェーズの異なる事業やサービスが無数に存在しています。そのため一口に「デザイン」と言っても、事業状況に応じて行うべきことは常に異なります。
つまり、各フェーズにおいてデザインディレクターそれぞれが、最適な打ち手をデザインの力を活用して実行することが大切です。そのため、それらを包括的に表現するためにリクルートのデザイン組織では「デザインマネジメント」という言葉を使っています。
もう一つの理由は、社内に対して「手段を限定せず、デザイン主導で物事を進めていく組織である」という姿勢を伝えることです。
組織立ち上げ当初、例えば、「デザイン部」のような言葉を使ってしまうと、どうしても形や色などの見た目のデザインを担ってくれる社内受託的な印象が生まれてしまうのではないかと考えていました。
しかし、リクルートにおいてデザインが扱う範囲はもっと広く、多様であるべきで、その姿勢を伝えていくために「デザインマネジメント」という言葉を使いました。
目的に対して、デザインという力を活用して、何でも行っていく姿勢を示すために「デザインマネジメント」という名称を取っています。
前述したように、リクルートにおけるデザインマネジメントの活動範囲は、以下の3つと定義しています。
デザイン浸透サイクル促進
組織基盤強化
デザイン啓発促進
これらの3つの活動を組み合わせて、デザインマネジメントユニットは、リクルート全体のデザイン成熟度を高めていくことを目指しています。
3つの活動は独立したものではなく、デザインの価値貢献によって信頼を獲得、活躍の場を増やし、それに見合った組織基盤を作りつつ、併せてデザイン啓発を進めていくことで、さらにデザインディレクターの活躍の場が広がる、、というそれぞれが絡み合ったものになっています。
ここからは、活動の具体例を少し紹介します。
デザインマネジメントの一つの要素は「デザイン浸透サイクルの促進」です。
これは、各事業に入り込んで、必要な解決策をデザインの力を使って進めていくこと、そしてそれによって関係者との信頼関係を醸成し、事業の中での役割を広げていくことを指します。
リクルートには幅広い事業領域があり、それぞれの事業は、サイズやフェーズ、ビジネスモデルも違うため、求められるデザインの役割は事業ごとに大きく違います。
例えば、求められるデザインの役割ごとに、以下のような分類で活動を行っています。
デザインドリブンで事業を変革
『リクルートダイレクトスカウト』のリニューアル
『ホットペッパーグルメ』のUX刷新 など
ユーザーへの提供価値最大化
レベニューアシスタントの宿現場リサーチとサービス改善
『スタディサプリENGLISH for KIDS』の3歳~8歳向け向けUIUX最適化
『ゼクシィオンライン招待状』のUIUX最適化 など
事業にあったデザインコンサルティング
『ホットペーパービューティー』のデザインKPI策定推進
『SUUMO』デザインガイドライン反映計画の推進
『Air ビジネスツールズ』のアクセシビリティ改善計画の推進 など
具体例として、『スタディサプリENGLISH for KIDS』では、そのUIUXを最適化するなど、ユーザーへの提供価値を最大化するための動きを事業の中に入り込んで主導しています。
『リクルートダイレクトスカウト』のリニューアルでは、最上流のコンセプト設計から参画し、デザインドリブンで他職種との共創を推進しました。
2つ目の要素は「組織基盤強化」です。
デザインマネジメントユニットの評価基準を整備する、事業部にアサインされるデザインマネジメントユニットのメンバーそれぞれが持っている知見を横で繋げるようにするなど、よりデザインの価値を事業内で促進しやすくするための基盤を、組織の拡大に合わせて整えています。
リクルートでは多様な役割を担うことへの自由度を残しつつ、それらの活動を一貫して評価できる「業務不確実性」と「デザイン不確実性」という2つの視点を取り入れた評価基準を取り入れています。
詳しくはこちらでも紹介されています。
デザインマネジメントユニットとして、事業貢献性の高い活動や事例が貯まったナレッジのデータベースを作成しています。
単純なナレッジシェアではなく、横断組織で様々な事業を担当しているからこそ知れる、具体的かつ深い事例がいくつも蓄積されています。
例えば、以下のような具体的な内容までデータベースにまとめられています。
合意形成のポイント
デザイン品質の定義パターン
デザインのROIの測り方
事業状況ごとのケーススタディ
3つ目の要素は「デザイン啓発促進」です。
デザイン活動に他職種のメンバーを巻き込んでいったり、社内に向けてデザインに関する発信を行うことで、リクルート社内でデザインを扱える人やデザインに理解の深い人を増やしていくことを目的に様々な啓発活動を行っています。
例えば住まい領域では、プロダクトマネージャー組織など、非デザイン職種のメンバーに向けて、どういったタイミングや役割分担でデザイン組織とコラボレーションするとより連携を深めることができるのかなど、社内向けの情報発信活動を進めています。
実務を通して、デザインマネジメントユニットがこんな範囲までデザインで関与してくれるんだ、ということを他部門の人たちに気づいてもらうことを狙いとしています。
現在では、80名以上がデザインマネジメントユニットに所属し、それぞれが各事業で価値貢献を行い、信頼を獲得していったことで、ようやく思い描いていた「デザインマネジメント」に組織の活動の幅を広げられるようになってきています。
冒頭で述べたように、リクルートには複数の事業があり、多種多様な事業状況のニーズに対して、デザインという力で事業をより良い方向に進めていくことを今後も担っていこうとしています。
ここまで多種多様な事業が存在し、かつ自律性を求められる環境で、デザイン職種としてどう価値貢献していくべきなのかを考えながら、常に試行錯誤し続けています。
組織として常に意識しているのは「目的思考で、手段を限定しないこと」です。デザインディレクターとしてこうしなければならない、と決めていることは無く、唯一「動かすデザイン」というフィロソフィーが共通の価値観として存在しています。
リクルートという会社は、自ら動かなければ大きな変化は起こりませんが、逆にいうと、筋を通せば自由度が高く、何にでもチャレンジができる会社です。良い意味で自己責任で放任的で、能動性が求められます。
社内でデザインの立場が弱かったところから、ここまで規模が大きく、投資対象として経営レイヤーから認知されるところまで組織が成長してきたのは、ひとえに所属するメンバー全員の「動かすデザイン」に体現される能動性によるものです。
今後もデザインマネジメントを通して、事業におけるデザインの可能性を広げ、メンバーの能動性を促す組織づくりに取り組んでいきます。