2024年12月12日に、SmartHR コーポレートサイトを全面リニューアルし公開しました。私はCD/ADとして、このリニューアルプロジェクトに携わりました。
特に意識していたことは、規模の拡大と急成長を両立する「スケールアップ企業」としてのSmartHRの姿を解釈し、今後のコーポレートブランディングの土台やたたき台(基準点)をつくることでした。
プロジェクトを振り返りながら、背景となる考え方や制作プロセスをまとめたいと思います。
まず初めに、コーポレートサイトは、SmartHRとステークホルダーとのあらゆるタッチポイントにおける基準点 (= 企業のアイデンティティやその見せ方、伝え方の基準)を示すものであると考えています。
下図は、SmartHRとステークホルダーとの様々なタッチポイント、および各種媒体との関係性を整理したものです。
中央には「企業としてのSmartHR」を伝えるコーポレートサイトがあり、このサイトを基準点として、サービス顧客、採用候補者など、各ステークホルダーに応じた適切なコミュニケーションを展開するような関係性だと捉えられます。
その中で、今回のリニューアルは、現状のSmartHRの実態に合わせ、基準点をどこに置くべきか振り返り、未来も見据えたうえで、改めて定義する試みだったと言えます。
今まで、SmartHRのコーポレートブランドにまつわる制作物は、サービス側で定義していたブランド要素を起点に作られていました。(明確に決めていたというより、暗黙の了解としてそうなっていたというニュアンスが近いかもしれません)
しかし、現在から数年先の企業としてのSmartHRを考えると、従来のようにサービスと同一の人格ではなく、コーポレート独自の人格を再定義し、表現することにトライしても良いのではないかと考えました。
なぜこのような考えに至ったのかをまとめます。
SmartHRは事業・組織ともに急成長をしています。2024年11月時点で従業員は1,300名を超え、サービスは公開後9年で登録社数が60,000社を突破。さらなる成長を目指して活動しています。
このような規模の拡大と急成長を両立させる現在のフェーズにおいて、SmartHRは自らを「スケールアップ企業」と定義しています。
スケールアップ企業としてのSmartHRを表すキーワードとして、例えば「規模の拡大と急成長の両立」「多くの挑戦と創意工夫」「未知をひらく」などが挙げられます。
しかし、サービスのトンマナを起点とした旧コーポレートサイトでは、企業のフェーズの変化による上記のような要素を十分に表現できておらず、「ホワイトで安定的」「牧歌的(のどかでゆったりしている)」などのイメージが先行し、意図しない印象が生まれている場合があることも分かりました。
制作当時の状況で「最適解」だった表現も、ある程度の時間経過や状況の変化によって、新たな課題が生まれます。
SmartHRでは、急成長を遂げスケールアップ企業としての輪郭が明確になった現在、サービスと同一人格ではなく、コーポレート独自の人格を表現することにトライし、SmartHRブランドとしての幅や深さを見出してみても良いタイミングだと考えました。
旧コーポレートサイトは2021年頃に制作したものでしたが、運用上の課題も顕在化していました。具体的には、情報設計、アクセシビリティ品質、英語対応が挙げられます。
2021年当時、従業員数は約450名でしたが、現在までで約3倍の規模に急成長しています。さらに、海外投資家を含むステークホルダーも増加しており、適切な情報設計や英語対応など、サイトに求められる水準も高まっていました。
こうした状況の中、従来のコーポレートサイトでは、今後の企業フェーズに対応するには限界が生じてきていました。
そこで、「企業として目指す姿と見られ方の違い」「運用上の課題」の2点を踏まえ、コーポレートサイトのリニューアルに取り組み始めました。
リニューアルにあたり、まずは方向性を定めるための戦略設計を行いました。この戦略設計は、ブランドマーケティングのnakamari-sanを中心に行っています。
具体的には、現状のコーポレートブランドやサイトに対する課題感・目指す姿をCxO陣や、コーポレートブランディングと関係の深い部署にヒアリングし、それらを基に方向性を言語化していきました。
ヒアリングの中では、例えば以下のような意見が挙げられました。
そして、ヒアリング内容を基にコンセプトやウェブサイトとしてあるべき姿、起こしたい変化などをまとめていきました。
このような方向性を基に、コーポレートサイトのデザインを進めていくことになります。
サイトデザインにおいては、規模の拡大と急成長を両立する「スケールアップ企業」としてのイメージを、どのように解釈し表現するかが重要なポイントでした。
これまでのSmartHRらしさを継承し、全体の一貫性を保ちながらも、新たなフェーズへの期待や共感、信頼を生み出すにはどうすれば良いか。
パートナーとしてM-HANDさんに伴走いただき、様々な検証を重ねた結果、以下のキービジュアルにたどり着きました。
困難な道のりを、検証を繰り返しながら登っていく様子を、社内では共通言語となっている「スイッチバック」に見立て、ビジュアルに反映しています。
また、SmartHRの成長の軌跡は、個々の創意工夫と挑戦の集積によって形成されることを、線上の模様で表現しています。
さらに、このキービジュアルを基に、以下の点を考慮してサイト全体のデザインを行いました。
サービスブランドとの差別化のため、SmartHRブルーは象徴的に使用
サイト全体として、アクセシビリティに配慮
採用サイトなどのコーポレートブランドのサイト群のトンマナに一貫性を持たせるため、白黒ブルーの割合、罫線、ボタンの色味と形状などを共通化
また、サイトの情報設計を全面的に見直すとともに、多様な来訪者が、現在やこれからのSmartHRをより深く理解できるコンテンツの開発にも取り組みました。
例えば、新たに作成した「事業から見るSmartHR」や「組織から見るSmartHR」などのページは、SmartHRのことをまだよく知らない状態でサイトに来訪した方をメインターゲットとして想定し、ビジュアルとコンテンツの両面から企業の全体像を掴んでいただくことを意図したコンテンツです。
このような過程を経て、新たなコーポレートサイトを公開しました。
公開してからまだ日は浅いですが、このプロジェクトを通して、今後のコーポレートブランディングにおける土台やたたき台となるものを作れたのではないかと感じています。
実は、サービスとしてのSmartHRと、企業としてのSmartHRのブランディングをあえて切り離すという考え方は、2024年3月に公開した採用サイトから実験的に取り入れてきていました。
採用サイトを通した検証も糧となり、今後のコーポレートブランディングの基準点となるようなコーポレートサイトを作り上げることができたと思います。
ただし、あくまで「現時点でのひとつの解」であり、絶対的なものではありません。
急成長を遂げてスケールアップ企業としての輪郭が明確になってきたことで、コーポレートブランディングの基準点を改めて考え直す必要が出てきたように、今後、事業や組織のフェーズが変われば、最適解と言えるものも変化していくと考えられます。
今回のリニューアルを一つの出発点と捉え、これからも、SmartHRのブランドを育て、より強く、より魅力的なものにしていきたいと思います。