こんにちは! SmartHR コミュニケーションデザイングループのsakikoです。

編集者、制作会社のディレクター・プロジェクトマネージャー、フリーランスの編集・ライター・ディレクターを経て、2022年2月にSmartHRコムデにディレクターとして入社しました。

SmartHRコミュニケーションデザイングループ(通称:コムデ)に、ディレクションユニットという制作のディレクションを行うユニットができたのは2022年1月。ほぼ立ち上げと同時にジョインした形になります。

2023年5月にプロジェクトを担当するディレクションユニットとCommunication Design Opsユニットに分割。以降はディレクションユニットのチーフを担当しています。

ディレクションユニットの変遷については、こちらをご覧ください。

今回は、SmartHRコムデを例にしながら、事業会社でのディレクションの現在地について、活動範囲や具体例をまとめようと思います。

ディレクターの仕事は、組織によっても事業によってもその内容が異なるため、つかみどころのない役割かもしれません。デザイナーやマーケターがディレクターを兼任している場合もあります。

では、なぜSmartHRコムデは専任ディレクターをおいてるのか、どのような役割を担っているのかについてお話します。

ディレクションユニットができる以前は、デザイナーがディレクターの役割も兼任する体制でした。

要件が複雑ではない場合は、兼任体制の方がコミュニケーションコストも減るので有効かもしれません。

例えばウェブ掲載のバナーなど、事業的な要望と制作の要件が近く、むしろ関わる人数が少ない方がスムーズに進められる場面においては、現状でもディレクターを専任で置いていません。

一方で、要件が複雑だったり、制作物が多岐にわたるようになってくると、事業と制作の間がどんどん広がっていきます。この間には、予算策定、制作体制策定やステークホルダーの整理、スケジュール策定などが含まれますが、これらをデザイナー全員ができるわけではありません。

プロジェクトが大きくなってくると、「配置の決定 / 修正」「予算の決定 / 修正・全体の進行管理」「座組の決定」「企画」などなど、多くの要素を扱う必要があります。

このように、複雑なプロジェクトはディレクターをおくことで、目的達成のしやすさや、達成までのスムーズさを実現できるようにしています。

プロジェクトにもよりますが、SmartHRコムデにおいては、専任のディレクターは以下のような役割を担っています。

SmartHRコムデのディレクターの役割例
より具体的には、 ・プロジェクトの中長期の見通しを把握 ・制作の工数や難易度を踏まえた、適切な予算策定 ・見通しに応じた、プロジェクトのゴールや制作の着地を整理 ・外部パートナー選定や、パートナーを含めた配置や役割調整 ・事業の展望を踏まえた、成果物の着地 などなど、事業側のメンバーもやりづらく、制作メンバーもやりづらい部分をディレクターが行っています。

上記はあくまで一例で、プロジェクトによって必要な動きは変わってきますが、事業と制作のハブと捉えてもらうと良いかもしれません。 「事業会社でのディレクション」という視点で見ると、事業を鑑みる部分や、ディレクターがゴール地点(制作物の着地点)を提案する場合もあることは、事業会社でディレクションするおもしろみの1つです。

ここからは、具体的なディレクションの動き方について、実際のプロジェクトを例にご紹介します。

2023年3月にリニューアルされたオウンドメディアの「SmartHR Mag.」では、サイトリニューアルのディレクションなどを行いました。

2015年から8年間運用されていたSmartHR Mag.ですが、運用面やアクセシビリティ等の課題を抱えていたため、リニューアルをすることになりました。

リニューアルにあたって、以下のような体制で進めていきました。

  • マーケティング:4名

  • プロデューサー・ディレクター:2名(うち外部パートナー1名)

  • UXデザイナー:1名(うち外部パートナー1名)

  • アートディレクター/デザイナー:3名(うち外部パートナー2名)

  • エンジニア:1名(うち外部パートナー1名)

SmartHR Mag.のようなオウンドメディアは、ただリニューアルすれば良いわけではありません。

オウンドメディアの主戦場は運用。リニューアルは目的を達成するための土台づくりであり、ゴールではありません。メディアの成長を促進できる運用制作体制を構築する必要があります。また、すでに800を超えるコンテンツもあったため、その移行も含めてリニューアルを進める必要がありました。

そのため、以下のような条件を満たす強力な外部パートナーを探しました。

  • メディアの構築・運用に強い

  • アクセシビリティに強い

複数社にお話をうかがった結果、他のプロジェクトでもご協力いただいていたトルクさんという制作会社にお力を借りて、リニューアルを進めました。

メディア構築に強く、さまざまな観点でアドバイスをくださる制作会社にご協力いただけたことは、今回のプロジェクトの成功要因の1つだったと思います。

外部パートナーが決まったら、要件定義、仕様策定...と進めていくのですが、今回のプロジェクトでは、あえてゆったり目のスケジュールを引き、チームの納得度を重視する進め方を採用しました。

大まかなスケジュールは以下の通りです。

SmartHR Mag.でのリニューアルスケジュール
1. 要件定義 ... 1 ~ 2ヶ月 2. SmartHR Mag.全体のデザインや実装 ... 4 ~ 5ヶ月 3. 800以上の既存コンテンツの移行 ... 1 ~ 2ヶ月 4. 最終確認・ブラッシュアップ ... 1 ヶ月

今後を鑑みると、チームでリニューアル後の目的や方向性、SEO方針など初期要件定義をしっかり行うことで、納得感や理解度、運用時のイメージなどを高められると考えました。

そのため、もう少しスケジュールを早められましたが、あえてゆったり目のスケジュールに設定しました。

こうして、2023年3月に無事にリリースを迎えることができました。

リニューアルしたSmartHR Mag.のイメージ。タグラインも一新し「働く明日が、もっとよくなる」となりました。

また、これは余談ですが、SmartHRという組織が遊び心を大事にする会社ということもあり、404ページには人事・労務にまつわる川柳を載せています。

SmartHR Mag.の404ページのイメージ。人事・労務にまつわる川柳がランダムに表示されるようになっています。
https://mag.smarthr.jp/404
こちらの川柳は、後ほど出てくるSmartHR ユーザーコミュニティ「PARK」参加者のみなさんから詠んでいただいたものです。

パートナーとして伴走いただいたトルクさんからもたくさんのアイデアをいただき、川柳に添える「SmartHR」と書かれたハンコをつくっていただきました。本当にいいチームで進められたと感じています。

社内はもちろん、制作パートナーも含めて、メンバーそれぞれのパフォーマンスが最大限発揮できるチームビルディングも、事業会社のディレクターの大切な仕事だと思います。

続いては、オンラインコミュニティ「PARK」の立ち上げです。

PARKは、SmartHRユーザー同士で人事・労務についての知見やアイデアを共有しあうユーザーコミュニティです。もともとイベント中心の運営だったものを、イベント以外でもカジュアルにコミュニケーションをとれるようにするべくオープンしたのがオンラインコミュニティ「PARK」です。

PARKでは、SmartHRを導入いただいている方を対象として、人事・労務に関するお悩み相談や、特典のプレゼントなど、さまざまな機能を提供しています。
PARKの画面例

人事・労務の担当者は、情報の機密性の高さなどから相談しづらいため孤独を感じやすく、他社の事例を知る機会も他職種と比較して多くありません。それらを解決するための存在が、このPARK です。

多くの機能や要素があるオンラインコミュニティの立ち上げにおいて、ディレクターの役割は、最初のリリース時点で何を重視するか、何を諦めるか、どう進めるか、といった部分でした。

オンラインコミュニティの場合、通常のウェブサイトやメディアとはまた別のディレクションが求められます。

  • オフラインでの勉強会や分科会(人事・労務の分野ごとの研究会のようなもの)とのスムーズな接続

  • コミュニティに所属する方々が、自発的に活動できるような設計

  • 業種別に異なる人事・労務のニーズに対応できるような仕組み

など、企画・構想と制作の間にある要素がとても多くあります。

チーム内でさまざまな視点でのイメージの共有がありましたが、すべての「こうなったらいいな」をβ版ローンチ地点で実現することは難しいことが想定できました。

さらに、β版は2022年のリリース、翌年に正式オープンを予定していたので、何を優先して制作するかを判断するためにも、中期の見通しをある程度立てた上で、β版ローンチ地点で現実的に対応できる範囲を共有する必要がありました。

ただ、オンラインコミュニティはSmartHRでも初の試み。この時点ですべてを明確化することは難しいのは当然です。そのため、

  1. 現地点での暫定的な見通しを立てること、

  2. それまでに起こる変化には柔軟に対応すること

  3. その認識をチームで共有すること

という3つを行いました。

PARKを担当するのは、マーケティンググループのアドボカシーユニット。プロジェクトのオーナーシップや目標などに責任を持つのもこのチームです。なので、このプロジェクトの場合、コムデのディレクターが中期の見通しを立てるというのは適切ではありません。担当のマーケティングメンバーに見通しの必要性やアウトプットイメージを伝えながら、出てきた見通しに基づいて、うまく制作メンバーと連携・調整するような立ち回りでした。

各分野のプロフェッショナルが集まっているSmartHRの場合は、適切な場所に必要性をきちんと伝えて最適なアウトプットを依頼するのも、ハブであるディレクターの役割の1つのように思います。

各領域のプロフェッショナルに背中を預けられるのもSmartHRのいいところかもしれません。

制作知識があるディレクター目線で「このようなものが欲しい」と伝えることで、制作コスト意識の向上・削減や、納得感の醸成などを生むことにもつながります。

ディレクターにとっても、さまざまなプロフェッショナルのアウトプットとともにクリエイティブ戦略を練っていくことができるのは、知見が広がりとても勉強になります。

いくらコミュニケーションを丁寧にとっても、プロジェクトに問題はつきものです。

今回は、プラットフォームとの兼ね合いによる問題も発生しました。

PARKは、influitiveという海外のコミュニティプラットフォームを利用していますが、当時日本での導入実績があまりないものでした。

海外のツールということもあり、文化によるUIの違いや日本語対応など、可能であれば改善したい箇所が少なからずありました。

オンラインコミュニティはテキストベースのコミュニケーション。だからこそ、ところどころで微妙にニュアンスが異なるUIや日本語は、コミュニケーションを阻害してしまう可能性があります。

すべてこちらでカスタマイズできればいいのですが、カスタマイズにも限度があり、influitive社の力を借りなければならないところも発生してきます。

課題の総量を可視化するために試しにつくってみたMiro。誰でもイメージしやすいようにユーザー画面側のスクリーンショットをすべて一つの画面に貼り、全体像を把握しやすくした。

もちろん問い合わせや対応依頼を行いましたが、時差やリソース、スケジュールを鑑みてすべてを行うのは難しいと判断し、正式リリース時の課題として積み上げることにしました。

社内外、事業の状況も踏まえながら、着地をコントロールしていくことができるのは、インハウスディレクターならではかもしれません。

冒頭で、ディレクションには事業寄りな役割から制作に近い部分まで、幅(広さ)があることをお伝えしました。

(再掲)ディレクションの役割は、予算取りや目的整理などの事業寄りのものから、制作スケジュールの設定や外部パートナーとの協働、制作に近いものまで、幅広くあります。

そして、この「幅」に加えて、ディレクションが必要な領域を事業に応じてざっくりと分けるようにしています。それぞれの領域に対して深い理解(深さ)が必要であり、求められるディレクション・スキルも異なってくるためです。

ディレクションが必要な領域のざっくりとした分類
現状は、 ・CMやマス広告などを扱うブランディング領域 ・特設サイトやオンラインでの企画などを扱うイベント領域 ・サービスサイトやコーポレートサイトなど、運用しながらKPIを高めていくような既存顧客領域 などに分けています。

それぞれの領域において必要な知識も、制作への解像度も異なります。

例えば

  • 導入事例やeBook、機能説明などさまざまな要素を扱うサービスサイトを、アクセス数などを見ながら、全体のバランスを保って改善していく

  • 今後の拡張性を考慮しながら、オンラインとオフラインをまたいだコミュニティ施策を打っていく

などなど。領域によって進め方も考え方も違います。

ディレクションユニットでは、柔軟に動くことをむしろ良いことと考えています。

SmartHRは変化の多い組織です。それに伴い、各施策においても変更が生じる可能性もあります。状況に応じてゴールやプロセスを柔軟に変えていけることは健全であり、結果としてよりよくなるように、都度最適解を探っていきたいと思っています。

そして、“ローンチして終わり”ではなく“その後”も追いかけられる、改善に携われるというのは、事業会社でディレクターをする大きな意味・喜びの1つだと思います(飽きっぽい私ですが、おかげで今も変わらず楽しめています)。

ただ、ここまでお話したのは、2023年9月現在の話。インハウスのディレクションは、まだまだ改善の余地も大きいと感じています。変化を楽しみながら、今後もディレクションユニットを柔軟に変化させていこうと思います。今後もお楽しみに。

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