先日、アシュアードでは、新規事業として「Assured企業評価」という取引先企業のセキュリティ評価を行う業務を支援するサービスをリリースしました。

これまで「セキュリティの信用評価プラットフォーム」として、クラウドサービスを対象に評価を行っていた「Assured」から、企業そのものの評価へと、取引先全体に評価対象を拡大するチャレンジとなります。

アシュアードの新規事業「Assured企業評価」をリリース

私はこの新規事業の、体験設計からリリース、PRまでのあらゆるプロセスにデザイナーとして関わってきました。

アシュアードはセキュリティの信用評価の仕組みを根本から見直していく思想で事業を運営しています。だからこそ、私たちが提案するサービスは世の中にない「新しい体験」であることがほとんどです。

この「新しい体験」をデザインするにあたっては、いくつもの難しいポイントが生まれます。だからこそ面白い部分があるのですが、今回はこの難しさと、それをどう乗り越えているのかを「Assured企業評価」の立ち上げを例に、失敗も含めて赤裸々にまとめてみたいなと思います。

事業そのものの面白さややりがいについては、事業長で代表の大森によるnoteもご覧ください。

アシュアードでは、従来のセキュリティ評価のあり方を見直していく提案をしています。

アシュアードが提供するのは「セキュリティの信用評価」です。すべての企業がすべての取引先のセキュリティ評価を、Assuredで行い、「セキュリティの信用評価なら、Assuredで完結」という世界観をつくろうとしています。

Assuredが目指すのは「取引に確信を与える、セキュリティの星つきガイド」という新しい体験を普及すること

このような未来を目指して、まず、取引先のなかでもクラウドサービスのセキュリティ評価サービスを提供。サービス開始から約3年で、三菱UFJ銀行様など、セキュリティ評価基準の高い150以上の金融機関をはじめ、上場企業を中心とした1,300社以上の企業で導入が進み、無事に受け入れられ始めたと考えています。

1つ目の事業を通して、セキュリティの信用評価という価値が受け入れられ始めている

そこで、満を持してチャレンジする新規事業が「Assured企業評価」です。セキュリティ評価の対象をクラウドサービスから、業務委託先などの取引先企業へと変える、事業多角化の挑戦となります。

取引先企業のセキュリティ評価業務は、現状、非常に労力がかかるもの。日本において、セキュリティ人材が充足している企業は1割にも満たないというデータもあり、適切な評価を行うことが難しい現状があります。

取引先企業のセキュリティ評価業務の課題はたくさん存在している

この課題自体は、クラウドサービスにしろ取引先企業にしろ共通した構造があります。そのため、クラウドサービスを対象とした「Assured」と同様に、 “セキュリティの信用評価” を用意することでソリューションを提供できるのではないかと考えていました。

しかし、業務を紐解いていくと、本当に「共通のセキュリティ評価規格」というソリューションが有効かどうかが分からなくなってきました。実現したい世界観を社会実装するためにも、コアとなるコンセプトを改めて検証していくことが今回の立ち上げのポイントとなりました。

「セキュリティの信用評価」という共通した提供価値を検証するのが、今回のポイント

「Assured企業評価」の新規立ち上げは、全体として以下のようなプロセスで進めていきました。

まだ世の中にない新しい体験を早く検証していくために「分からないことがあれば、その都度具体的にプロトタイピングや図解による可視化をして検証」を繰り返してきたのが特徴です。また、それを行うのがデザイナーに閉じていないのもカルチャーを体現しているなと思います。

Assured企業評価の立ち上げプロセス

ここからはできるだけリアリティをもって、新しい体験をつくるために具体的に取り組んだ3つの問いと、私たちの回答をまとめてみようと思います。あくまで暫定解なので、より良い解決策を思いついた人はぜひ教えてください。

「Assured企業評価」立ち上げにおける新しい体験をつくるための3つの問い

1つ目の問いは、実現したい世界観のコアコンセプトは成立するのか?というものでした。

「セキュリティの信用評価」というコンセプトによって、業界構造ごと変えていくのが「Assured企業評価」の構想です。

クラウドサービスを対象とした「Assured」はお客様に受け入れられ始めていますが、企業のセキュリティ評価業務は、クラウドサービスのそれとは、ステークホルダーも業務プロセスも異なります。プロダクトデザイナーとしては、「本当にセキュリティの信用評価をコアコンセプトにできるのか?成立させられるのだろうか?」という疑いをもちつつ、できる理由を探索しながら体験設計をしていきました。

Q1. 実現したい世界観のコアコンセプトは成立するのか?

この問いに対して私たちが行なったこと (=回答) は、「企業評価ならではの業務特性をとことん理解していく」というものです。

A1. 企業評価ならではの業務特性をとことん理解する

まず「評価情報がプラットフォームに蓄積した末に、どう活用していくのか?」という、事業プランや未来の提供価値について想像していきます。

事業として実現したい世界観を、事業長を含めたメンバー全員で対話することで解像度を上げる。そのうえで、実際の業務について「ここはどうなってる?」「どうすれば理想に近い姿になるのか?」と分かっていないことをドメインエキスパートや顧客解像度のあるビジネスメンバー、ときにはお客様にもヒアリングさせていただき、プロダクトデザイナーとして具体的な体験設計として可視化していくようなアクションを続けていきました。

こういったプロセスのなかで、迷子になることもあったため、その際は改めて大前提の提供価値や顧客課題の認識をあわせるために、プロダクトマネージャーが中心となり、リーンキャンバスを作成することも行いました。

セキュリティの信用評価化を進めた場合に新しく発生する「まだ存在しない業務」についても、プロトタイピングで想像を具体化する

さらに、理想的な体験の流れを議論しながら、簡易な図解で整理したり、顧客の業務フローをまとめたり、プロダクトのモデル構造をつくったりと、何度も議論と可視化を繰り返しています。

初期の議論の様子、理想の世界観や、実際の業務を確認しながら、つくりたい体験の共通認識を持てるように可視化する
顧客の業務フローを整理
現在の業務で分かっていない部分も、ドメインエキスパートと議論しながら、実際の行動フローを整理する

このように、企業評価という業務の現状を整理しつつ、考えられる論点に対して何度も可視化と対話を繰り返していくことで、あくまで仮説ではありますが「おそらく共通化の考え方が、企業評価においても通用するだろう」という予測がついていきました。

今回は、分からないことをつぶさに具体的にし続けることで、どんどん解像度を高めていく愚直なアプローチを取りましたが、進め方については反省もあります。

大きなところで言えば、日々アップデートする戦略仮説の変化を即座にデザインに適用できず、迷いが出てしまった部分もありました。

わからなさに向き合うのは、ときに決めきれず無力さを感じることもありますが、一方でチームで共創しコトを進めていくのは、間違いなくやりがいのあるコトです。チームでの共創では、前述の通り、チームで解像度を上げることと対話によって認識をすり合わせ続けるという基本が大切なのだと再認識しました。

Q1. 実現したい世界観のコアコンセプトは成立するのか?についてのアンサー

このように検討を進めていくなかでも、まだまだ「本当に必要とされるサービスになっているのか?」ということには確信が持ちきれないのが正直なところです。

新規事業で、かつ市場にもまだない新しい体験を提供していくにあたって、公開前にニーズの有無を確かめることは、解決しておきたい問いでした。

Q2. 市場にまだない体験のニーズをどう確かめる

この問いに対する私たちのアプローチは、「セールスと連携してMVPをお客さまに当てて、ニーズを確認する」ということです。

A2. セールスと連携してMVPをお客さまに当てて、ニーズを確認する

Q1 で議論してきた内容をもとに、理想的な体験をまとめたFigmaのプロトタイプはすでに用意していました。

あらかじめ用意していた、理想の体験をまとめたデザインデータ

これをビジネス要求を踏まえ、打ち合わせ用にMVPとしてのプロトタイプを再構築していきます。

理想の体験をまとめたデザインデータから、打ち合わせ用にMVPとしてのプロトタイプをつくる

このMVPを、セールスメンバーが商談のなかでお客さまにお見せし、製販一体となってこの検証を進めます。

例えば、セールスメンバーから「来週このようなお客さまと話すんだけど、この機能のプロトタイプが欲しい」といった形で、おそらくこれがあれば売れるだろうという仮説に対して、プロトタイプをお見せする流れを繰り返し、MVPを磨いていきました。

セールスメンバーと連携しながら、MVP仮説をお客さまにぶつけ、磨いていく中での反応

私は、このようにプロトタイピングを通してお客様のニーズを探っていくアプローチをよく取ります。

このようなプロセスを挟むと、実現したい世界観の検証で広げた風呂敷に対して、初期提供時のプロダクトイメージを実装前にお客様やチーム内ですり合わせやすいと感じます。

Q2. 市場にまだない体験のニーズをどう確かめる?についてのアンサー

最後の問いは、新しい概念をどのように市場に伝えるのか?というものです。

セキュリティという領域自体が理解の難しい複雑なものであることに加えて、そのなかでも「セキュリティの信用評価」という新しい体験を提案しているアシュアードの事業は、やはりなかなか市場に理解してもらえないという課題がつきまといます。

Q3. 新しい概念をどう市場に伝え、広げていく?

この課題に対して私たちは、「中心となる思想を言語化し、全てのコミュニケーションを一貫させる」アプローチを取りました。

A3. 中心となる思想を言語化し、全てのコミュニケーションを一貫させる

新規事業のリリースコミュニケーションは、LP、プレスリリース、ニュース媒体、記者会見、営業やCS経由でのアプローチ、などたくさんのチャネルで行われます。

私たちは、これらのコミュニケーションの全てを、一つの文脈・ストーリーから語られるようにするため、クリエイティブカンパニーのPOOL inc.さまと一緒に「バイブルストーリー」というコミュニケーションのコアを整理しました。

これは、これまでのAssured事業で培ってきた歴史 (Legacy)、いま企業評価に取り組む理由 (Why)、コアな体験の仮説 (What)、アプローチ (How) という4段階で、コミュニケーションの骨子を定義したものです。

「Assured企業評価」というプロダクトの歴史や思想を一つにまとめた、バイブルストーリー

このバイブルストーリーを起点にして、「Assured企業評価」の公開にまつわるすべてのコミュニケーションを整理しました。例えば記者会見や、公開と同時にリリースされる広告、LPの構成など、すべてのメッセージがこのバイブルストーリーを起点に設計されています。

バイブルストーリーをもとに、すべてのリリースコミュニケーションを一貫させる

他にも、ロゴやサービス名についても同様に、思想をもとにどのようなものが良いか、あらゆるパターンを検証し意思決定しています。

ロゴやサービス名、複数のプロダクトのブランドの切り分け方もバイブルストーリーをもとに検討

サービスやプロダクト自体をそのままPRするのではなく、思想を起点に一貫したコミュニケーションを設計することで、新しい概念を世の中に浸透させ、結果的にアシュアードという会社が広く業界構造を変えていくことにつながると信じています。

Q3. 「企業評価の共通化」という新概念をどう市場に伝える?についてのアンサー

このような問いに向き合いながら、2025年6月、「Assured企業評価」を公開しました。

すでに、いくつもの企業様からお引き合いをいただいています。ただ、まだまだ検討中の機能も多くあり、現在も検証のなかで少しずつプロダクトの拡張に取り組んでいます。

これまでよりも大きな市場で、「セキュリティの信用評価」というコンセプトが受け入れられるのかどうかは、私たちの頑張りにかかっています。

私は、Assured立ち上げタイミングから1人目のサービスデザイナーとして事業に参画し、今回と同じように立ち上げを行ってきました。

https://cocoda.design/satorutoya/p/pbaef65e01529

今回、新規事業として「Assured企業評価」の立ち上げに携わって思うのは、これまでの立ち上げ経験でも思ってきたことですが、「新しいカテゴリーのデザインは、めちゃくちゃ難しいし、やっぱり楽しい」ということです。

そもそも業務理解も難しいのに、それだけでは足りず、新しい体験の仮説をつくり検証していく。さらに、プロダクトを公開してもすぐにフィードバックが来るわけでもなく、正解が見えないなかで理想の世界観に橋渡しをしていく胆力が必要です。

ただ、既存の分かりやすい業務をそのまま代替していくようなサービスではなく、そもそも新たな体験が求められる領域の事業にチャレンジできることも幸運だなと思いますし、一つひとつの意思決定が、本当に業界構造を変えることに役立つ可能性があることにワクワクします。

このように正解が分からない状況こそ、デザインのチカラが発揮されるはずだと信じ、日々悩みながら事業に向き合っています。業務のあり方から変えていく大きな挑戦をしている会社で、未来にあるべき体験をプロダクトや市場にフィットさせていくことに、チーム一丸となって取り組んでいきます。

不確実性の高い領域だからこそ、難しい問いに向き合う必要があるアシュアードのプロダクトデザイン

今回、問いと私たちなりの回答をまとめてみましたが、カテゴリーを新たにつくっていく事業であれば同様の問いに向き合っている方もいらっしゃると思います。この記事に共感して、自分なりの回答をおもちの方がいればぜひ一緒にディスカッションさせていただきたいです。(ぜひ、X などの SNS でご連絡ください。)

事業内容について、気になった方は、事業長で代表の大森によるnoteも、ぜひご覧ください。

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