SmartHRコムデでは、制作物や関連するデータをまとめた「デザイン成果物DB」を独自に運用しています。
デザイン成果物DBの様子
デザイン成果物DBには、コムデが関与した1600件以上の制作物と関連データ(制作者やデザインデータ)が蓄積されています。
このデータベースを使って、定期的な制作物の振り返りや、各施策が最適なアウトプットになるよう調整を行っています。
まだまだ発展途上ですが、今回はこの取り組みを通じて実現しようとしている「ブランドの共通言語化構想」とその現在地についてまとめようと思います。
なお、このデザイン成果物DBはalma社さんとSmartHRコムデの共同開発として取り組んでいるものです。
SmartHRコムデでは、バナーから特設サイト、ノベルティなどほとんどの制作物を内製化しています。
これは、私たちが単に「制作部隊」として機能するためではなく、以下のように活動したいと考えているからです。
事業フェーズやタッチポイントに合わせた、柔軟なアウトプットを行うため
ブランドを俯瞰し、アジャストしていくため
それぞれについて詳細に見ていきます。
SmartHRでは、「SmartHR Blue」というブランドカラーを、認知形成においてSmartHRらしさを表すための特に重要な要素だと捉えています。
https://cocoda.design/chihari/p/p7b6b27ff1aa3
例えば、SmartHR Blueを押し出している例としてこんな事例があります。
◾️ 関係者ネームタグ
こちらは、展示会やイベント会場で、SmartHR関係者とそれ以外を区別するためのアイテムです。ただブランドカラーを使うだけではなく、色が認知形成のための「記号」として機能するよう象徴的にデザインをしています。
◾️ SmartHR Blueポスター
こちらは、ブランドカラーを大きく印刷した、オフィス内設置用のB0判のポスター。
ブランドカラーであるSmartHR Blueを全面に色ベタで印刷した、オフィス設置用のB0判ポスター。一点ものを、色校正を行いつつ制作しました(※ オフィス内設置のため、画像はイメージです)。
デザイナーに限らず広く全社員にむけて、ブランドカラーの存在と色味についてお知らせすることで、印象のブレを少なくし、ブランド維持の重要性について興味喚起することが目的。
一方で、SmartHR Blueをあえて強調していない制作物も多くあります。
◾️ 働くの実験室(仮)
「働くの実験室(仮)」は、働くことについて考え、共にアップデートしていくことを狙いとした、ブランドマーケティング施策の一つであり、情報ポータルサイトです。
敢えて「SmartHRらしさ」から外し、企画の独立性を打ち出しました。企業ではなく企画自体のメッセージに対して、個人として共感してもらうことを意図したクリエイティブにしています。
企画自体もあえて未完成とし、常にアップデートしていく「Work In Progress」(WIP)な状態を表すために、モザイクをモチーフとした固定しない白黒の単純なスタイルでまとめ、プロジェクトが束ねる個々の活動そのものが目立つようにしています。
◾️ WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)
「WEDNESDAY HOLIDAY」は、働き方やライフスタイルが多様化する中で、それぞれが感じる「よく働くってなんだろう?」をテーマに、個人やチームの働き方をさまざまな分野で活躍するゲストとゆるやかに語り合うPodcast番組です。
メインビジュアルは、広く様々な方に聴いていただくために、SmartHRのブランド感とビジネス感とカルチャー感の良いバランスを探ってディレクションしました。
“水曜日の夜を北欧では小さな土曜日と呼ぶ”ということから名付けられた番組名から、北欧文字からインスパイアされたロゴマークを制作。また働くをテーマにしつつも、ほっとできる番組ということを伝えるために、色使いや、ソファーでゆったり聴くイメージの北欧風のキャラクターなども配置しました。その後、メインパーソナリティが決定しリニューアルを経て現在のビジュアルに着地しました。
◾️ WORK and FESWaF_22ウェブ
“働く”を象徴するさまざまなテーマを通して、企業や人の在り方をあらためて考えるトークセッションイベントが、「WORK and FES」です。2022年は“信頼”をコンセプトに実施しました。
SmartHRのお客様に限らず、あらゆる働く人に向けた「働き方を考える」フェス型イベントとして、ロゴやメインビジュアル開発から、WEBやバナー、会場や配信デザイン、ノベルティなど全体のビジュアルを制作・ディレクションしていきました。
SmartHRコムデでは、ブランドとは一面的で固定された“らしさ”があるのではなく、多面的でゆらぎのあるものであると考えています。
だからこそ、事業フェーズやタッチポイントに合わせた、柔軟な制作を実施しています。
制作物に幅を持たせて、さまざまな場面で適切なブランド表現、メッセージの伝達を行っていくことに加えて、内製化にこだわる理由は、制作物への関わり方にもあります。
一度きりの制作ではなく、継続的にその制作物や領域に関わり、他の職種ともやりとりを重ねることで、「この場合の、この表現・訴求は、良かったのか?」など、ブランドを俯瞰しアジャスト(適切な表現やメッセージに調整)していくことができます。事業会社の施策は常に要件が変動するため、生きたデザイン活動を実施していくための関わり方です。
例えば、年末調整にまつわる情報をまとめて紹介する「年末調整ガイド」というウェブコンテンツでは、お客さまからのフィードバックを元に、内容面も印象面もブラッシュアップを重ねています。
立ち上げ時は最低限の目的を果たした「リンク集」の形でしたが、年末調整のどのステップやシーンに関わる情報なのか想起できるコンテンツへとブラッシュアップし、点での情報提供から、線がイメージできる情報提供へとなりました。検討の際は、ジャンルの異なるコミュニケーションデザインの成果物を俯瞰することで、調整の方向性を決めるヒントにしています。
担当したsoltyさんからもコメントをもらっています。
内製化しカイゼンが途切れない状況にすることで、場面やタッチポイントに合った、適切な成果物へとアジャストさせていくことができるのです。
ここまでのまとめも兼ねて、SmartHRのコムデが制作物やブランドに対して重要視していることは、大きく2つだと言えます。
- 固定された「らしさ」を持つのではなく、タッチポイントや場面に合わせて、幅を持たせること(ブランドを多面的に捉えること)
- 定義して終わりではなく、俯瞰してアジャストしていくこと
これらを実現し、ブランドに対して適切なガバナンスを効かせていくことを目的にした取り組みが、デザイン成果物DBの作成と運用です。
幅のある制作物を、その時々に合わせて適切にコントロールし、アップデートしていくには、ガバナンス(統制・管理・品質のコントロール)をしっかりと効かせる必要があります。
この「ブランドのガバナンスを機能させるシステム」の一端こそ、デザイン成果物DBの役目であり狙いです。蓄積された制作物は、振り返りやワークショップなどにも利用しています。
またデザインガバナンスを考える上で、制作の背景にある文脈を属人化させず、できるだけ外部化することも意図しています。新しく入ったメンバーや、制作物を引き継いだメンバーに対しても、より制作物の変遷や現状を共有しやすくすることもこの取り組みの役割のひとつです。
コミュニケーションデザインにおける成果物は、感性的な要素も多く含みます。
そのため、チームでブランドを扱うためには、「このときのあれ」「あの時の、ああいうの」など、雰囲気や温度、ニュアンスを共有することが、必要不可欠であり、難しくもあります。
そのため、SmartHRコムデでは、デザイン成果物DBを参照することで、制作物の表層だけではなく、関係した部署やデザインデータ、施策など、あらゆるコンテキストを伝え、「あの時のアレ」がやりとりできるような、「ブランドの共通言語化」に取り組んでいます。これはあらゆる手段で総合的に向き合っている課題で、成果物DBはそのひとつです。
デザイナーに限らず、マーケメンバーやセールスメンバーなど、職種をまたいで「こういう感じ」「あの時のあれ」がやりとりできることを目指しています。
優れたデザイナー1名が、トップダウンで全ての制作物を判断することは、常に変化のある事業会社やスタートアップにおいては、現実的ではありません。
SmartHRコムデでは、「チームで、より良いブランドへとアジャストし続ける」ことを目指して、デザイン成果物DBなどの取り組みをしています。そのためには、まだまだ取り組めていないことも多いのが現状です。
今後は、大きく2つの方向性に分けて、デザイン成果物DBを活用した取り組みを検討しています。
◾️ コミュニケーション面での活用
依頼者と制作するデザイナー間での認識のすり合わせ
デザイナー同士の認識のすり合わせ
SmartHRに興味を持っていただく方への共有
日常のコミュニケーションを深めるための、制作物DBを活用したすり合わせの精度向上やコスト低減ができると考えています。
◾️ カイゼン面での活用
- これまでの制作物の振り返り
- デザイナーの評価
これまでの成果物に対して、時期ごとの絞り込みや検索をすることで、俯瞰した判断やプロセスを含めた議論ができると良いなと思っています。また、制作物自体をアウトプットという「点」で評価するのではなく、施策の背景などを踏まえた「線」で見ることで評価にも活用できると考えています。
ブランドのガイドライン(定義)や、アセットの管理はとても重要です。
一方で、それだけではまだ30点ぐらいだとも感じています。一度定義されたものは古くなるし、ブランドは設計側のものではなく、相手に想起されて初めて成立するものだからです。。
想起される側面や価値は、多面的で動的なものです。
デザイン成果物DBや、ブランドの共通言語化構想を通じて、短期的なブランド観の先をいくようなSmartHRブランドの次のステージをつくっていきたいと思います。