こんにちはこんにちは。SmartHR コミュニケーションデザイングループ(以下コムデ)で「コミュニケーションディレクター」をしている関口(sekig)です。コミュニケーションがおおいですね! わたし自身コミュニケーションが上手かというとそうでもないですね! でもコミュニケーションは大事! コミュニケー(以下略

…すこし前に「謎図」という概念理解を深めるひとつのやり方のようなものをお話ししました。

「コミュニケーションディレクター」として最近はさらに仕事の幅が広くなり、撮影をはじめとした制作案件のディレクションやメンバーのサポート、デザインシステム、採用など、SmartHRコムデのめざす業務領域“すべてのタッチポイント”におけるさまざまなことにいろんな角度で関わらせてもらっています。

ちなみに、チーム内ではこういうことらしいです。もっとほめて!(要求)

幅広い業務はジャンルレスで捉えどころがないですが、「これも実はSmartHRの“ブランドアセット(後述)”として活用できるかも」と感じたものへ実際に飛び込んでみてその定義をしていく…その手助けをしていく…といった地道な活動がほとんどです。

今回はそんな「ブランドやブランドアセットをどう定義して、運用しているか」という話を、どれも絶賛進行中なのですがご紹介してみようと思います。

わたしたちSmartHR、そしてこれを読んでくださっている方のうち、きっと多くの人が普段主に取り扱っているものは「ウェブサービス」や「ウェブサイト」ではないでしょうか。

一方で、よく名前のあがるフレームワーク「サービスブループリント」などに使われる言葉としての“サービス”は、「ウェブサービス」だけを指しているわけではなく、事業全体を指していますよね。

デジタルプロダクトのブランドも同じように、タイポグラフィやカラーがブランドの要素=ブランドアセット(ブランド資産)としてすぐに思い浮かびますが、実際はもっと広いはずです。

ブランドアセットについて議論するなかMiroで描き起こした「ブランドの要素ざっくり図」。ブランドはあらゆる要素=アセットで構成されること、それは抽象的な思想でまとめられ、タッチポイントを具体化するためのアイテムをデザインする要素でもあること…を、とてもざっくり説明。

あらゆるトーン&マナー。テキストや写真はもちろん、コード規約や、(サービスの)ボイス、サウンドだって、ブランドアセットとして考えてもいいと思うんです。こうして考えてみると、いま挙げたような表現要素に限らずあらゆるところにその可能性がありそうです。

現状わたしの業務においては、これらのブランドアセットを、デザイナーが網羅的にトップダウンで提示するのではなく、社内で発生した課題に対して「もしかすると写真のトンマナが定義されていないかもね〜?」と都度ブランドアセットに議論を持っていくアプローチをしています。

これは、そもそもSmartHRにおいてのブランドが(デザインの文脈において)まだ明確に定義されきっておらず、じっくり足並みをそろえていくフェーズにあるためです。すでに完成され、運用フェーズにあるような歴史のある組織とは異なるポイントかもしれませんね。

次からは、とはいえなぜそういった、場当たり的にも見えかねないスタンスを試みているのか、すこし具体例をつかって書いていきますね。

例えば、最近では「フォト」というブランドアセットを定義しはじめたんですね(こっそり)。

フォトに関してはこの1年で3つほどの案件に関わっています。案件を通して段階的にブランドアセットの定義を進めているのですが、ボトムアップ形式で多面的な視点で検討していくため、それぞれにアプローチが異なりました。3つの事例にそれぞれどのように関わり、定義を進めているのかを案件ベースでご紹介したいと思います。

まずは、先日発表したSmartHRのCEO交代をお知らせする案件から。

このとき使う写真のフォトディレクションを担当したのですが、SmartHR経営陣や、組織の温度感を表現するために、さまざまなパターンを試してみました。

背景としてわたしが意識したことは3つほど。

ビジネス的に大きな場面でありつつ、カルチャー体現も同時に求められている案件的なバランス。また、これまでフォトディレクションを確立しきれていなかったことへのコムデとしての具体的な取り組み。そして、成果物として目に見えるもので「SmartHR的な写真」をアウトプットし、ブランドアセットとしてのあり方を周囲ともう一歩進めること。

この複数ある観点のバランスをとることを「ニーズ」と解釈してすすめていきました。

宮田さん(前CEO、現SmartHR取締役ファウンダー)の個人ブログにも載せられている写真。こちらは広報の場面にも使えるようなフォーマルな写真として撮っていただきました。
こちらはあえて左側前景にぼけを入れることでごちゃついた背景を簡略化、新CEO芹澤さんの佇まいを引き立たせているソロカット。
ピントがブレたような抽象的な写真も、絵としての印象がよかったため、今後の様々な打ち出しを考慮し意図的にセレクト。

前述の背景を前提に、このように写真のパターンを試していきました。あくまでマスト要件は抑えつつ、品質やトーンの方向性をつけ、可能性もある程度広げる。そんな調整役です。

実際の撮影にあたってわたしが行った「フォトディレクション」として、視点を整理し直してみますね。

1. 案件特性:

  • ビジネス上重要なCEO交代の場面なので、誤解や齟齬のない品
  • 現(当時)CEO、新CEOの表情がよくわかり、人柄が伝わる明快さ
  • 交代のコンテキストに沿い、実際の関係性が伝わるような和やかな雰囲気
  • メインカットは既存CxO写真と並べても違和感の出ないもの

2. 媒体特性:

  • プレスリリースが主媒体、またブログにも掲載
  • OGPでのSNSシェア表示、アグリゲーションサイトでの転載もあり得る
  • 横位置または正方形、掲載サイズはさまざま。デジタルのみ

3. SmartHR的な写真のありかた:

  • パーソナリティを踏まえたもの
  • 「気軽に話しかけられる、いつも隣のデスクにいるような身近な」空気感
  • 被写体を標本的に扱わず、人柄や感情また文脈を尊重する
  • 実態と異なる伝わり方をするような演出はせず、自然光のように無理がないもの
  • のどかであたたかな午前中。自然だがごくわずかに青く、明るすぎず、暗すぎない
  • 想定外の用途に応用しても耐えうるバランスのとれた画作り

この 1. と 2. そして 3. を掛けあわせつつ、広報やデザイナー、被写体との会話を踏まえながらフォトグラファーさんとの撮影に挑みました。「トンマナを周囲と協調しながら作っていく」ということをやっていたわけです。

あくまでも、最初に “ブランディング” があって規定がありそれにあわせた制作をするのではなく、現実的な必要性をみながら走りつつ、らしさという無形のカルチャー/価値をどうやったら大勢の方に伝えられるのか? 今後安定して制作体制に落としていけるのか? を同時に探っていく活動です。

「案件視点〜ブランド視点/課題や手法〜その抽象化」のあいだを行き来することがいちばんのポイント。それをどれだけ高頻度に・おおきな幅でジャンプできるかが難しく、楽しいところ

そういった協調しながらのつくりこみ・ディレクション全般でひとつ気をつけていることがあります。

今回のフォトディレクションにおいても、案件の中ではかっちりと要件を決めるのではなく手法はプロや現場に任せ、やりたいことの解像度は高く、でもあえて余剰を持たせておくようにしていました。そうすることで、意図をはっきりさせ、同時にアソビの部分もはっきりさせることができます。その結果、自由な領域がはっきりしてきます。アウトプットの期待値に、いち個人が天井をつくらずに済むんですね。伝え方の粒度を都度工夫することもポイントです。

きちんと線を引くことでお互いの自由度を得る、各自を尊重する。これはとっても大事なことだと思っています。

SmartHRのバリューに「自律駆動」というものがあるんですが、各自が拾いに行くことにくわえて、拾いやすい状態にしていくことも大事だな〜と考えています!

撮影:アシノショウタ(amana)

また、2021年3月のコーポレートサイトのリニューアル時は、デザイナーや広報、総務、採用人事などメンバーからの「こんな写真がほしい」のリクエストが明確だったので、ラフスケッチを共有して「今回撮りおろす写真ってこういうものだよね」というイメージ・共通認識をプロジェクトメンバーとすり合わせていきました。これも、やりたいことの解像度を高めながら、議論を空中戦にせず要望と余白(遊び)のあいだをクリアにするアプローチです。

サイトのページ構成と撮影ラフ(下部)、それぞれの写真をオフィスのどこで撮るか(上部)を対応させたもの。アプリは「Concept」を愛用しています。好きなだけ広げて一枚絵で検討し部分を書き出してシェア。iPadってべんりですね…

各ページ下部のサイト共通要素「We Are Hiring!」セクション。サイトトップでは、SmartHRで働く様子が伝わるように、談笑するメンバーに加えて画面の中にSmartHR Blueがアレンジされたような写真をフォトグラファーの方にお願いしていました。

トップページのラフスケッチ。下手でもかきます。
実際に現場ですり合わせながら、トップページ用に撮っていただいた写真
実際にトップページ用に撮っていただいた写真、別カット ※未掲載

他にも、働いているイメージが湧くようミーティング風景を撮っていただいたのですが、その際のラフスケッチもこのような形で共有しました。これもさきほど紹介した大きな図の一部を拡大して切り出したものです。

実際に撮った写真の一例。現場で模索するなか、通りがかりのガラスの映り込みを見て急遽撮っていただいたアザーカット
上記アザーカットの利用先。ここは当初別のイメージを使っていたものの、撮影全体で撮りたい核になる部分(コンセプト)を事前にお伝えしていた手間のかかるカットは先に済ませていたので、臨機応変に対応できた

わたし自身あまり絵が描けるタイプではないのですが、写真など視覚に関わるものは空中戦にさせない方がよいと思っていて、どんな方法でも「やりたいこと」が具体的に伝わるようにしています。足りない部分は、スケジュールや相手を見ながら文章や打ち合わせなどを組み合わせて情報量を補完しています。

ラフスケッチは「具体的に何を撮りたいのか」と「伝えたいことは何か」が端的に伝わるように。実現の方法やそれに至った経緯などは補足情報なので別にする

このコーポレートサイト用オフィス風景撮影では、社外の方に対して、SmartHRのみんなが実際に普段どんなカジュアルさや和やかさで働いているのか、その「雰囲気を伝える」ことが目的でした。なので、いわゆる一般的な建築内装のような撮り方ではなく自然さを重視した雑誌風のスナップ形式に。予定カットはありつつも、極力現場合わせの工夫をとりこむ前提で柔軟に組み立てていくようにしました。

撮影したカットの一例。スナップ撮影の時間も予定に組み込み、いろんな場面を切り取った。

撮影:永禮 賢

他にも、プロダクトをサービスサイトや広告などで対外的に見せる時に使う「画面キャプチャ」で利用するために、社員に協力してもらい人物撮影を行ったこともありました。

このときは、事前にプロダクトキャプチャ(画面キャプチャ)がどんな場面で利用されるのか確かめつつ、担当の @samemaru さんとディスカッション。サービスを見せるうえで最も重要な“製品写真”でもあるプロダクトキャプチャの中におさめられる「人」のようすを、どう表現するのか検討しました

SmartHRがめざしているサービス像から、意図しない印象を与えず、目指している印象に近づけられるよう細かな撮影条件を設定。それをもとにフォトグラファーさんと相談して撮影を組みました。

また被写体になってもらった社員には、SmartHRの文書配付機能を使ってひとりひとりに契約書を配付。会社と個人との間で個別に権利まわりの契約を締結し、お互いに気持ちよく安心して進められるよう取り組んでいます。

実際に撮り下ろした写真を利用した画面キャプチャの一例(最新の仕様と異なることがあります)。
人物撮影時のトーン検証サンプル。全体感とモデル個人の良さが出るバランスを調整。偶然とおりがかった社員にも当日のバランスを考え参加いただいたり、服装の色に偏りが出てしまったため急遽色味のあるパーカーを借りてその場にいた社員を撮影したりと、現場でもねらいに合わせてハンドリングしています。 ※最終カットではありません。ここから表情の選定や色味の追い込みをしています

この人物写真がいわゆる“証明写真”的なイメージでは「従業員を無機質に管理している」ような印象にも見えてしまうため、SmartHRの目指すコミュニケーション(サービスイメージ)がすこしでも伝えられることを意図しています。

そのため、見栄えの統一感や全体的な印象は打ち出しつつも、プロダクト開発サイドがひたすら個人に向き合っている姿勢を表現したく、撮り方に工夫を凝らし、やわらかく人格的に幅のある見え方を目指しました。

撮影:永禮 賢

いくつか例を出しましたが、どの事例も単体では、決まった形で「フォト」というブランドアセットを定義しているわけではありません。

むしろ、現場を重視しその場にいるメンバーや関わる方々での共通理解を生み「SmartHRの写真って“こんな感じ”かもね」の認識を合わせていくことを一番に進めています。

本記事で軸にしている「フォト」はまだかなり実験段階の要素ですが、通常はそのアセットの必要性に応じて、適宜“こんな感じ”を抽象化(共通化するための言語化)して、SmartHR Design Systemすばやく掲載していきます。

すこし話をブランド全体に戻します。

フォトも含め、わたしがあえて一元的にブランドを定義しないようにしているのは、ブランドというものを「誰かが決めた、正解不正解のあるもの」にしたくないからです。

緻密で美しいガイドラインは、わたし自身も何度もその必要性に関わってきましたし、それが重要な場面も当然あります。

一方で、「先に」細かなガイドラインをつくってしまうことで、「ブランドに合っているか≒ルールに当てはまっているか」が議論の中心になり、「ブランドが(わたしたちが)どうありたいのか」という主体性をなくしたくないのです。

https://speakerdeck.com/sekiguchiy/rasisatoxiang-kihe-u-smarthr-brand-comm-unit?slide=89

ブランドを他人事にせず「デザインは我々のもの」であるために、(模索中ではありますが)定義しすぎず余白を設けるように試みています。

そしてもうひとつ。

フォトに限らず、デジタルプロダクトのブランドをかたちづくる要素はもっとたくさんあるはずなんです。デザインの対象はそもそも、もっと広い。

広いんですよ〜。いや〜、ひろいんですよ〜〜〜!!!

今回は「フォト」というわかりやすい事例を挙げて、ブランドアセットの定義や運用についての活動内容…特にディレクションにあたる部分を書いてみましたが、同時並行でそのほか有形無形さまざまなブランドアセットについても「みんなで使えるかも?」とチームで取り組んでいるんです。

社内外への「SmartHRらしさ」の具体化と品質向上に貢献し、体現する

これはコムデの中のわたしが所属するチーム、ブランドコミュニケーション通称「ブランドコム」の大方針にあたるものなんですが、「〜体現する」と結んでいます。メンバー各々のやり方で、ブランドのあり方・手法や対象の広さ自体もアウトプットしていきたいという考えからつけているもの。

素敵なデザインをつくることはもちろん、デザインを定義したり運用したりするだけではなく、そもそもの「デザインの調整点」自体を見つけ出したり解釈の余地を話しあったりするところからやっていきたい。そしてそれを組織横断で、事業全体に対してサービスと捉えて働きかけていく。SmartHRコムデの領域はそこにあると思っています。

さいごに。デザイナーから見ると「ブランド」ってどうしても整えたくなる、小綺麗になりがちなもので、統制の取れた一面的なものだと捉えてしまうことも多いかもしれません。わたしも少なからずそうとも思うのです。…が、その反面、本当はもっと人間のように多面的で場面によって見え方が変わるようなものかもしれないとも思ってるんです。

「このサービスのブランドはこう!」とトップダウンで決めていくやり方もあるかもしれません。実際それが効果的な場合も多々あります。使い分けも必要でしょう。実際コムデでも、今後は両面でのアプローチの可能性も検討しています。しかし大前提として、より民主的に、より変化しやすく運用されるブランドを目指して模索を続けていきたいと思います!

そんなチームの仲間も募集したいと思っています。ぜひSmartHR コミュニケーションデザイングループの発信をウォッチしてみてくださいね。

人生最大に“ブランド”って書いたかもしれません…ブランドってなんや……!

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