2023年夏、ワンキャリアの新卒向け事業領域でプロダクト組織の形を再編し、これまでtoC, toBで分かれていた組織を一つに統合しました。

ワンキャリア新卒事業部での、プロダクト組織体制の変遷イメージ

統合後の1年間で採用管理機能、ワンキャリアID、会員登録導線のリニューアルなど、抜本的な機能群の開発を行うことができました。

この1年間でつくった機能の一覧

プロダクト組織を再編することにした理由と、事業へのインパクトを強めていくためのプロダクト組織づくりのプロセスをまとめます。

ワンキャリアは、これまで可視化されていなかった「キャリアデータ」を活用し、就職・採用の意思決定をサポートする事業群を運営しています。

俗にリボン型と呼ばれるような、学生などの求職者側のユーザーと、人事などの企業側のお客さまの双方に価値を届けていく必要がある事業構造で成り立っています。

ワンキャリアの事業構造

このような事業構造のため、本来は求職者と採用企業の両方に向けて価値を届けていく必要があります。

しかし、当時の新卒向け事業領域では、toCのプロダクト・マーケ組織とtoBの ONE CAREER CLOUD という連携すべきプロダクト組織が分かれており、体制としていびつな構造になっていました。

当時のプロダクト組織の構造

このような構造だった理由は、ONE CAREER CLOUD が ONE CAREER よりも後に生まれた事業であり、それに合わせてtoC、toBと分かれて組織がつくられていったためです。

内製でプロダクト開発を進められるようになったのも事業の立ち上げから少し経ってからで、必要に応じて組織がつくられていた背景がありました。

このような組織体制が影響し、toBで大きな改善をしようとしても、toCとの連携が必須なため改善が行えないといった進めづらさが発生し、両事業ともに細かなプロダクト改善しかできなくなっていました。

当時のプロダクト組織からのアウトプット

「このようなデータを取得してほしい」と伝えても、すでにロードマップが固まっているため、反映したくても差し込めるのは数ヶ月先となってしまい、開発のスピードが出づらい状況でした。

toC、toBで別々にロードマップがつくられているため連携しづらい

ワンキャリアでは、2026年に売上高100億円以上、営業利益30億円という目標を掲げ、毎年大きく事業成長をしようとしています。

当時の開発のスピード感では、事業成長につながりうる機能開発が遅れ、プロダクト組織として目標達成に貢献できない懸念がありました。

ワンキャリアとして目指す事業成長のスピード

ここから、よりプロダクト全体に大きく価値を生み出せる組織を目指し、体制を改善していきました。

ワンキャリアの新卒向け事業領域におけるプロダクトのあり方から見直すには、まずそもそもの考え方を変える必要がありました。

採用・求人プロダクトはもう既存の型があって、プロダクトマネジメントの介在余地が少なく、コンテンツでしか差別化できないというイメージがある方もいるかもしれません。

ただ、ワンキャリアは単なる採用メディアではないため、プロダクトで解決できることはまだまだ大きいだろうと考えました。

もちろん求人情報や求職者情報などのコンテンツは、採用/求人プロダクトにおいて非常に重要なファクターです。ただ、採用活動・就職活動というものを業務として細かく捉えると、まだ属人的に行われているジョブが多くあります。

例えば、企業側は求人作成、採用候補者の管理、就職イベントの準備、面接のトークフローの作成などがあり、求職者側は就職スケジュールの管理、就職イベントのリサーチ、面接準備、企業研究などが挙げられます。

当時のワンキャリアで、ソフトウェアとして提供できていたのは求人検索/掲載などの一部分だけであり、それ以外の多くの業務 (あえて業務と表現します) には価値提供の余地が残っていました。

当時のワンキャリアの状態

採用の構造をシンプルに捉えると「良い人が欲しい企業と、良い企業に入りたい人が結びつくこと」が根本的な価値になります。

もっと当たり前に、自分がベストだと思った会社に入れるように。採用したい人を見つけて入社してもらえるように。その周りにある求職者の課題、採用課題を一つ一つ解決していくことが必要です。

そのために、就職・採用活動の一連の流れをソフトウェアでサポートできるようにしようと考えました。

組織としてつくりたいプロダクトの理想状態

このような考えをもとに、抜本的なプロダクト組織の見直しを進めました。具体的には、方針、体制、開発プロセスの3点から改善を行いました。

まずはじめに取り組んだのが、ワンキャリア全体としてのプロダクトビジョンの設計でした。

きっかけは「ONE CAREER CLOUD  (新卒toB事業側プロダクト) の今後を考えてほしい」という依頼を代表の宮下さんと、CTOの岩本さんからもらったことです。

このタイミングで、新卒toB事業だけでなく、新卒toC事業、さらに中途事業なども含めたワンキャリアのプロダクト全体としての未来を描いていこうと考えました。

ワンキャリアのミッションは「人の数だけ、キャリアをつくる。」です。今ある事業だけでなく、どのような価値を提供していけば、このミッションに向けて真っ直ぐ進んでいけるのかを考える必要があります。

ワンキャリアのミッション

ここで取り入れたのがアナロジー思考です。今後目指すONE CAREERの将来像を、近い概念をもとに表せないかと考えていきました。

例えば、参考にした概念は、「SMBC ID」などのIDサービスです。

共通のIDさえ持っていれば、関連する複数のサービスを手軽に受けられるようになる世界観は、ワンキャリアが目指す世界観と通ずるものがあるのではないかと気づきました。

「ONE CAREER の共通のIDを持っていれば、キャリアに関するあらゆるサービスを手軽に受けられるようになる未来になっていく。」

そのような未来に向けて、ONE CAREER 全体のプロダクトビジョンとして「キャリアデータプラットフォーム」という構想をまとめます。(これは全社のIR資料にも掲載される社内に浸透した概念となりました)

生まれたプロダクトビジョン「キャリアデータプラットフォーム構想」

次に、私が所属する新卒事業側のプロダクト組織を、リボン型の事業構造を踏まえた体制へと転換させることを決めました。

具体的には、これまでtoC事業部に所属していたプロダクトマネージャー1名、プロダクトデザイナー1名と、toB事業部に所属していたプロダクトマネージャー2名、プロダクトデザイナー2名を、一つの部署にまとめました。

プロダクト組織の体制を再編

このような新たな組織立ち上げ時に最も大事になるのは「早く実績を出す」ことです。実績を出さなければ、組織を置いている意味がありません。

組織改変の狙いは、分かれていてはできないようなインパクトの大きい施策を打てるようになることです。そのような施策を早く積み上げていけるように、開発プロセスを模索していきました。

ここからは、試行錯誤をする中で辿り着いた現在のワンキャリアの開発プロセスの中でも、特にユニークなポイントをまとめてみます。

基本的にアジャイルな開発サイクルを取っていますが、大きなインパクトを早く確実に出していくためにいくつもの工夫をしています。

ワンキャリア新卒向け事業領域でのプロダクトマネジメントのポイント

プロダクトビジョンをもとに、広く人材に関わる事業を立ち上げていくことが必要だと思っていたため、これまでのプロダクトの改善というよりも「まだONE CAREERがカバーできていない領域はどこか?」という発想で機能をつくっていくことを狙っています。

特に工夫している手法をいくつかまとめておきます。

| 業務全体で、カバーできていないところを明確にする「星取表」

就職活動を業務に見立て、業務フローを洗い出していきました。その中で「ONE CAREER がカバーできているところ、できていないところ」を星取表のような形で整理をして、そこから取り組む領域を決めていくようにしています。

今後開発する機能を、カバーできていない事業領域から選定するための「星取表」

| ユーザー起点での開発体制へ

また、プロダクト体制の変更後は、より探索的なリサーチを開発プロセスに取り入れるようになっています。

ビジネス起点で開発を進めるのではなく、本当にユーザー起点で欲しいと思われるものかを明らかにしていくために、課題やソリューションの設定の段階から、ユーザーインタビューを頻繁に行っています。

ユーザー起点での開発を行うために、探索活動に力をいれている

このような探索活動については、こちらの事例でも詳しくまとめられています。

ワンキャリアでは、社内にも学生インターンが多くいるため、インタビューやユーザーテストの対象を社内からすぐに見つけることができます。同様にtoB向けの機能であれば、社内の人事担当者にすぐに聞きにいくことができるため、ドメイン理解を非常に円滑に進められます。

ワンキャリアのプロダクト開発におけるユニークなポイントは、「新機能開発」や「既存機能のリニューアル」については、必ず開発前にビジネス的な計画まで立てることです。

このような場合、例えば販売計画や、どのくらいのタイミングでどのくらいの利益につながるのか?というところまで計画して稟議を通し、開発の意思決定を行うようにしています。

開発に入る前に、販売計画や、利益の想定まで計画し、稟議を通して意思決定

もちろん、この前段では、プロダクトとして伸ばす指標と事業KPIがどのように関連しているのかもKPIツリーのような形で整理しています。

KPIツリーのイメージ

一見すると、スピードが出ないように思われるかもしれませんが、逆だと考えています。

無駄な開発をせずに、確実に利益にヒットするような資産を積み上げていくのがプロダクト開発の役割だと捉えて、稟議の段階までに「この機能をローンチすればターゲットから必ず求められるサービスになるだろう」と言えるものへと磨いていくことで、結果として速くインパクトのある機能を出していくことができます。

このような仕組みがあるため、ワンキャリアのプロダクト開発の球はどれもインパクトの大きなものとなっています。

例えば、2024年3月、toB向けの機能開発として、ONE CAREER CLOUD に採用管理 (ATS) を追加することができました。応募者受付から選考・入社まで、採用に関する業務を一元管理できるシステムです。

ワンキャリアクラウドの採用管理 (ATS) 機能をリリース

また、2024年8月には、ワンキャリアの複数のプロダクトを一つのIDでスムーズに利用できる「ワンキャリアID」をリリースしました。

2024年8月、「ワンキャリアID」をリリース

インパクトの大きな機能をつくるために、あえて丁寧な検討を重ねてから機能開発をするようにしていますが、明らかにユーザビリティに不備があるような場合の小さな改善もないがしろにしてはいけません。

そこで、間違いなく改善した方が良いプロダクト上の課題を稟議不要で改善していけるよう、「コマカイゼン」という仕組みを取り入れています。

細かな品質改善については、稟議不要で進めることができるしくみ「コマカイゼン」

具体的には、定量・定性の両方の情報をもとに、常にプロダクトの使い心地を確かめており、ここから出てきた改善案の中ですぐに着手できるような改善については、プロダクトチーム内でどんどん回していくようにしています。

コマカイゼンの運用イメージ

結果として、プロダクト組織の体制再編から1年間で、7つの機能が生まれました。どれも一つの機能単位で、数億円規模の売上が予測できるようなインパクトの大きい機能です(もちろん、コマカイゼンでいくつも改善は行っています。)

この1年間で生まれた機能

再編以降、スピーディーにインパクトのある機能を公開し、実績も出すことができています。経営陣や社内から、プロダクトへの期待も高まっているように感じています。

社内からの期待の声

ROIに効くような資産をつくるのが、ワンキャリアでのプロダクトマネジメントです。

「プロダクトやデザインの改善を売上に繋げて語るのは難しい」という通説はわかりますが、インハウスでプロダクト組織をつくる上で乗り越えないといけない責任だと思っています。

特にHR事業においては、プロダクト組織から生み出せる事業インパクトは、何もせず放っておいてはどんどん少なくなっていきます。しかし今回まとめたように、腰を据えて取り組めば、大きな課題を捉えたインパクトの大きい機能を追加していくことができます。

事業構造を捉えて、インパクトを出しやすい組織構造をつくる。その上で、数年先まで見据えて利益につながる機能を探索する。この繰り返しで、事業を成長させていくことが必要です。

ワンキャリアでのプロダクト開発の方針「 P/L を成長させる B/S をつくる」

1年間でつくってきた実績は始まりに過ぎません。ここからさらにプロダクトビジョンの実現に向けて、新卒領域だけでなく、中途領域でも同様に機能開発を繰り返していきます。

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