rootで、日本経済新聞社(以下、日経)が運営する、全国のワークスペースを予約なし (*一部店舗は予約が必要) で利用できるサービス「NIKKEI OFFICE PASS」のリニューアルを支援しました。
プロダクトの体験設計から、サービスブランドの設計・ロゴやサイトのデザインに至るまで、トータルブランディングを支援しています。
私はDPM (Design Program Manager) として、その一連のプロセスに携わりました。プロダクトからブランドまで、一貫した思想を持って進めることで生まれたインパクトについて、プロセスとともにまとめたいと思います。
rootでは、2018年から日経の各種サービスのデザインを支援しており、新規事業立ち上げなどにも携わっています。その一環として、2023年7月にNIKKEI OFFICE PASSのリニューアルについて依頼をいただきました。
NIKKEI OFFICE PASSは、全国のワークスペースを予約なし (*一部店舗は予約が必要) で使うことができる、サブスクリプション型のサービスです。
リリース当初はWeb版のみの提供でしたが、スムーズな体験を提供するためにiOS版・Android版を開発すると同時に、サービス全体の体験を見直し、リニューアルすることが決まっていました。
当時のプロダクトに対して、NIKKEI OFFICE PASSの方々が持っていた課題感としては、以下のようなものがありました。
機能追加に伴い、体験の再設計が必要に
世界観を強めたい
1. 機能追加に伴い、体験の再設計が必要に
すでに公開されてから一定の期間が経っていたNIKKEI OFFICE PASSでしたが、提携ワークスペースや利用者数は増加していたものの、プロダクトとしては、利用者が求める体験に対して機能改善が必要な状態でした。
例えば、リニューアル前のNIKKEI OFFICE PASSでは予約なしでワークスペースを利用できる利便性はあったものの、事前に予約して使いたいというニーズに応えることはできていませんでした。
予約なしで気軽に使えるというのは大きなメリットですが、一方で予約して安心な状況で利用したいというニーズを汲み取ることはできていませんでした。
予約なしでも使えるというNIKKEI OFFICE PASSの利点を活かしながら、さらに「予約して安心して使いたい」というニーズにも応えていけるように、アプリ版を開発するこのタイミングで、体験全般も一新することになっていました。
2. 世界観を強めたい
もう一つの課題は、世界観を強めたい、というものです。
「ワークスペースを探せるサブスクリプション型のサービス」であるNIKKEI OFFICE PASSは、特に難しい機能があるわけではなく、検索・予約という普遍的な機能で成り立ちます。逆にいうとプロダクトだけでは差別化がされません。
さらに、幅広く誰もがターゲットになりうるため、こちらからサービスとしての世界観を強く提示しなければ、誰にも刺さらないサービスになってしまう懸念がありました。
そこで、このリニューアルのタイミングで、NIKKEI OFFICE PASSとしてどのような世界観をつくっていきたいのかも言語化し、ブランドイメージに落とし込んでいくことが求められていました。
このような課題感を踏まえ、日経からはPOとPdMの計4名、rootからはDPM(デザインプログラムマネージャー)である私とUIデザイナー2名の計3名、開発会社のディレクター・エンジニア複数名という体制でリニューアルプロジェクトが動き出します。
リニューアルプロジェクトは、2023年7月から2023年12月までの、約半年の期間で進行していきました。
前述したように、プロダクト体験やUIデザインだけでなく、そこからブランド方針やコミュニケーションデザイン施策にまでも領域を広げ、トータルブランディングを支援できたのが今回の特徴です。
ここからは、一つ一つのプロセスを具体的に切り取ってみます。
まずは、プロダクトの体験全体像を見直し、機能ごとの画面設計を進めます。このプロセスにかけていた時間は、約3ヶ月です。
今回rootは、そもそも何の機能をつくるべきか、という探索のフェーズからは関わっておらず、ユーザーがスムーズに使えるようなユーザビリティやアクセシビリティに責任を持っていました。
前述したように「検索機能」に連携する「予約ができる機能」や、いくつかのワークスペースを同時に予約できる「複数チェックイン機能」など、つくることが決まっていた機能を、ユーザータスクフローで一連の流れとして整理します。
これらのタスクフローに沿って、一つ一つの機能の画面デザイン案を素早くプロトタイピングし、日経側に提案しながら、速いサイクルで論点を解消していきました。
毎回の提案には、root側からユーザー目線での指摘を残しています。
今回のサービスは、リモートでの稼働も多いroot社員がメインターゲットとなるサービスだったので、自分たちもNIKKEI OFFICE PASSをしっかり活用してみて、そこで得られたユーザーとしての感想・要望をもとにUI的な改善を行っていくアプローチを取りました。
一つの機能のUIが固まったら、開発にパスし、また次の機能に入ってき、、と繰り返していき、3ヶ月で想定しているすべての画面案を完成させることができました。
プロダクト側のデザインが落ち着き、あとは開発となってきたタイミングで、二つ目の課題であった「世界観を強めたい」ということもデザイン面から解決していくことを試みました。
NIKKEI OFFICE PASSのPO, PdMの方々を巻き込んで、数回のワークショップを通して、ブランドコンセプトを整理します。
まずは、イメージを共通認識で持っていくために、つくりたいブランドイメージを言語化・数値化できるフレームワークを活用して整理します。
ブランドイメージを言語化できるワークシートを活用したり。
また、ブランドアーキタイプによって、ブランドイメージの数値化を試みていきます。
ここまで言語化してきたブランドイメージを、一つのイメージにまとめてみます。
ブランドコンセプトとして、具体的な絵やキャッチコピーをまとめたパターンを3案持ってきて、ディスカッションしながら微妙なニュアンスのズレをチューニングしていきました。
さらに、より具体的にイメージを理解していくため、他社のロゴのポジショニングの中で、NIKKEI OFFICE PASSのデザインの方向性を探るワークも行いました。
結果として、「誠実」でありつつ「親しみのある」ようなイメージをつくっていくことが重要なのではないかと議論をまとめることができました。
新たに生まれたブランドコンセプトを、リニューアルに合わせて適応していけるように、ロゴとサービスサイトに反映します。
ちなみに、この段階で、root側からは人員を拡張し、アートディレクターとSTUDIOビルダーの計2名を新規にアサインしています。
(このように必要なデザイン機能に合わせて、最適な人員をすぐに追加できるのはrootの強みです。)
ブランドコンセプトを活かして、ロゴの発散を行います。
元々のNIKKEI OFFICE PASSのロゴはどちらかというと、堅い印象を受けるものでした。
一方で、ブランドコンセプトのヒアリングでは、「信頼感」に加えて、「馴染みやすくしたい」といった要望も回収していたため、どこまで変えていけるのかバランスを探ることから始めていきました。
最初から作り込まずに、手書きのラフなプロトタイピングで20数個のロゴパターンを資料にまとめて持ち込みます。
実際にビジュアルに落とすことで「さすがにこれはやりすぎ」といった微妙なニュアンスも調整していくことができます。
シンボルマークの方向性が絞られた後は、書体やカラーなど、さらに細かくディテールを検証し、NIKKEI OFFICE PASSらしい表現をディスカッションしました。
結果として、新たに以下のようなロゴへとリニューアルされました。
最後に、一新した体験や、ブランドコンセプト、ロゴをサービスサイトに反映していきます。
ユーザー目線で、押し出すべき体験を訴求としてまとめ、ブランドコンセプトに沿う形で表層も作り込みました。
プロダクトからコミュニケーションまで一貫して担当していることで、迷いなくサービスサイトの設計も行うことができます。
このようなプロセスを経て、NIKKEI OFFICE PASSのリニューアルが終わり、2023年12月に新たなサービスサイトがリリースされました。
NIKKEI OFFICE PASSの運営のみなさまからも、以下のように支援内容についての感想をいただいています。リニューアル時だけでなく、その後にも繋がる改善になっていると感じていただきました。
今回のように、変わっていく目的に合わせて、柔軟に必要なデザイン機能を提供していく支援をrootでは行っています。
事業の立ち上げ、拡大、リニューアル、新規事業の展開、と変わりゆく事業サイクルに合わせて価値を提供するには、プロダクト開発だけを支援するのでは足りません。
これからのデザイン会社は、事業会社やプロダクトの成長に寄り添って、組織づくりや、コミュニケーションデザインなど、その時々に最適なデザイン支援を行うことが求められています。
rootでは、プロダクトをつくるだけでなく、その組織が持続的にユーザーに向き合ったプロダクト開発ができるようなデザイン組織の設計まで支援を行います。
この構想を実現するには、深く伴走する関わり方をクライアントからも期待いただき、かついくつものデザイン機能を提供できる組織体制をrootとしてもつくっていく必要があります。
今回のようなプロジェクトを一つのモデルケースとして、新たなデザイン会社の支援の形を今後も模索していきます。