キュービックのエクスペリエンスデザインセンター(XDC)・UXチーム・マネージャーの伊藤です。2021年7月にキュービックにジョインしてから、UXチームを立ち上げ、フレームワーク「CUEM(キューム)」の浸透や事業におけるUXデザインの統括をしています。

(※「CUEM」は、より本質的な課題解決のためのフレームワークです。キュービックの基幹技術であり、キュービック社内においてはCIで定められたマインドとともに“全メンバーが持つべきスキル”と位置付けられています。詳しくはこちらをご覧ください)

私の目標は、リサーチをはじめとするUXデザインのアプローチと思考が自然に行われる組織をつくること。そのためにUXデザインを専門に扱うチームを立ち上げました。

キュービックのUXデザイナーは「量的成果」に加え、「質的成果」をもたらす役割です

いずれはマーケターとデザイナーが共創しながら、UXデザインアプローチを行うプレイヤーを組織内に増やしていきたいと考えています。

私と同じように「よりユーザーに愛用されるサービスやプロダクトを作るために、全員がリサーチや分析、体験設計などのUXデザイン的アプローチと思考を行える組織にしたい」と思っている方の参考になれば幸いです。

私がキュービックに入社する前から、XDCではユーザーを定性的に捉えるUXアプローチの重要性が叫ばれており、マーケター出身のデザイナーを集めたチームはすでに存在していました。

ただ、あくまで「箱」がある状態で他チームからはUXデザインチームが何をするチームなのか正しく認識されておらず、期待値も低い状態でした。

XDC内でUXデザインの必要性は叫ばれているものの、UXチームとしてうまく機能していない状況に私自身危機感を覚えました。

ただ、他部署のメンバーからすると、「UXアプローチとはどのようなものか」「具体的にどんな価値があるのか」など不透明な部分が多く存在している状態であり、「ユーザーを定性的に捉えるアプローチが成果に結びつく」という成功体験を社内で起こしていくことが重要だと考えました。

そのために、UXチームを機能させ、先陣を切って成果をあげていき、社内にUXデザインの必要性を浸透させる。

これを実現するためには、

  • 現状把握と課題設定
  • UXチームのあり方を定義
  • メンバー育成
  • 社内の信頼獲得

の4つを行う必要がありました。

UXアプローチの重要性は認識されている中で、実際どのような手法が取られているのかを把握するために、まず最初に当時のUXチームのメンバーから

  • 全体のプロセス
  • リサーチから得られたインサイト
  • 策定した課題
  • 立案した施策
  • これらによって得られた成果

を発表してもらう機会を設けました。

課題として見えたのは、一部のメンバー以外は定量的な調査しかできておらず、ユーザーを定性的に捉えるプロセスが抜け落ちていること。実際、成果に繋がるようなリサーチや分析は行われていなかったように思います。

まずはUXチームのMissionを定義し、どのようなワークフローでどのように効果を発揮するのかを誰が見てもわかるような資料にまとめ、UXチーム内はもちろん経営陣や周辺職種のメンバーに展開しました。

キュービックのUXデザイナーは、「質的成果」をもたらす存在

いまいち価値を理解しづらい領域であるため、具体的にどのように成果へ貢献するか、構造的にまとめて共有しました。

ビジネス的な成果に貢献できる理由を、明確に定義しておく

さらに、「UXデザインのあるべきアプローチ」を改めて可視化し、当時の在籍メンバーの業務との乖離を明示して、チームとして目指していく姿を明らかにしました。

MVVを定め、役割を定義した後は、自分達UXチームの個々人のスキルを高める必要があります。

最初のうちは、マネージャーである私自身がキーメンバーと共にハンズオンで現場業務に入り、メンバーと業務を分担して行うことで、UXデザインの手法を身につけてもらいました。

また、チームのスキルを高めるという文脈で、UXデザイナーの知り合いに声をかけ「メンバーの相談役としてサポートしてほしい」という依頼をしました。実案件そのものはメンバーに任せ、知り合いには相談役として業務のリーディングと育成をメインにお願いするイメージです。

UXデザイナーはそもそも市場に少なく、フルコミット前提の正社員を採用するとなるとかなり難しくなります。育成を目的としたよりライトな関わりを提案することで、協力してくれる業務委託の方を巻き込めました。

具体的な関わり方としては、相談役の業務委託の方には考えるべき項目や順番、アウトプットの型などの「枠組み」を僕と一緒に作ってもらいました。メンバーはその枠組みの中で実務を行い、随時レビューをもらう。いわば「師弟関係」のように業務を進めることでメンバーのスキルを育成していきました。

UXチームに依頼がきた時には、ほぼ全ての案件でOJTが可能な複数名をアサインするようにしました。相談役の業務委託の方を巻き込むことで、メンバーの育成をうまく進めることができました。

UXチームのあり方を再定義することとメンバー育成を行った後は、社内からの信頼獲得のための活動を始めました。

当然ではありますが、業務の相談をくれる方にはチーム一丸となって全力で課題に向き合いました。さらに、毎月の全社セッションで社内に向けてUXデザインに関するレクチャーやワークを実施しました。

全社共通のフレームワークを引き合いに、「現在の状況を明確に捉える」ためのリサーチの必要性を話す

リサーチやユーザー分析などの手法について丁寧に解説し、UXのアプローチがなぜ必要なのか、具体的にどのように行うのか、どのような成果をもたらすのかを発信。

全社でUXアプローチの重要性と手法の共通認識を作ることを意識しているため、リサーチの際どのようにユーザーをグルーピングするかを具体例を用いて説明するなど、かなり細かい部分までお話しました。

具体的かつ身近な例を用いて、ユーザーセグメントの分け方など、かなり細かく手法をレクチャー

また事業部と業務を進める際は、「レクチャーの場」にもなるよう意識をしています。

定期的にUXチームと事業部でMTGを設けていますが、その際、事業部メンバーにもUXデザイン業務の実務を行ってもらっています。それをUXチームのアウトプットと照らし合わせるような「宿題を一緒に解く」形式で業務を進めています。

テーマを提示し、事業部メンバーとUXチームメンバーでそれぞれアンサーを出して発表し合う「宿題形式」でお互いリサーチや分析をしておく

このようにUXチームメンバーだけでなく、一緒に業務を行う他職種のメンバーも対象としてUXスキルの向上を行うことで、「UXデザイナーだけでなく、メンバー全員がUXデザインと思考を行える状態」に向けて、歩みを進めています。

メンバーを育成しながら、さまざまな案件でUX業務を行うことで、UXプロセスが有用であることを社内全体に示しつつあるように思います。

実際にUXチームが参画し、リサーチ、分析、課題策定、施策立案、画面・機能の設計を担当した業務が大きな成果をあげ、全社で表彰されるまでになりました。

CVR改善が認められ、全社で表彰されるまでに

社内で信頼を集めていくうちに、嬉しいことにたくさん声をかけていただき、事業部との連携プロジェクトも複数実施されました。

また以前ご紹介した、デザイナーがマーケティング部に留学した取り組み。こちらの逆バージョン(マーケターがUXチームに留学する)の企画を経営陣に提案したところ、すんなり承認されました。

このように当初は「箱」だけしかなかったUXチームをリブートさせたことで、社内でUXデザインの重要性が認識され、今では必要不可欠なチームになってきたように思います。

振り返ると、UXチームの中長期的なゴールの提示、UXデザイナーの提供価値の定義、私が考えるUXデザイナーのキャリアの可能性、行動指針の言語化などの体制づくりが、以降のメンバーのモチベーション向上に繋がったように思います。

また、マネージャーとして実際に現場業務を共にすることで、速度あるメンバー育成、社内での信頼の獲得を実現できました。

今後はUXデザイナーのスキルをさらに高め、どんどんメディアやサービスに専任アサインしていくことが理想です。そして、自然とUX的な定性アプローチが全社で行われる状態を作っていきたいと思っています。

そのためにも、今のUXデザインチームを起点にどんどん成果を生んでいきたいと思います。

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