DMMのデザイン組織では、AIのデザイン業務への活用を推進するため、特設プロジェクトを置いて検証を進めています。

DMMデザイン組織では、AI活用の検証に積極的に取り組んできた

今回は、その中で検証されてきたUXデザインへのAI活用方法を、既存のデザインプロセスに組み込む形で、社内に浸透させていく流れについてまとめます。

前述したように、2023年の後半からDMMデザイン組織では、デザイン業務へのAIの活用について力を入れて検証を進めています。

約1年の間、各領域から代表のデザインメンバーを集め、「デザインAI推進プロジェクト」を運営。UXデザイン、UIデザイン、クリエイティブの3領域にまたがってAIを実務で活用することを検証してきました。

デザインAI推進プロジェクトの変遷。現在はすでに長期的な運用検証のフェーズに

現在は、業務活用に向けた技術検証を終え、デザイン業務での生成AI活用を検証し始めています。

検証開始から途中段階での成果については、以下の事例にもまとめられています。

UXデザインの実務で活用するフェーズへ

検証の結果、例えばバナー生成などの技術は、すでにいくつかの事業部で運用が開始されてきました。

そして、UXデザインの業務 (ex. ペルソナ設計、プロダクトの体験全体の整理、改善施策の決定...) もまたAI活用の報告が多数集まってきたので、それらを他の事業やサービスでも汎用的に使えるようにブラッシュアップするアクションを始めました。

今回のプロジェクトの目的
  • UXデザインの専門家以外も、AIに助けてもらい基本的なUX検討をできるようにする
  • UX検討の様々なシーンでAI活用可能なことを多くのメンバーが実感できる成功体験を作る

という2つを目的にアクションがスタートしました。

 「DMM総合トップリニューアル」などの全社横断プロダクト案件を担当しているデザイン部 第1グループの泉谷、動画事業のプロダクトデザインを担当している北島、企画開発部に所属する西の3名のUI/UXユニットが、プロンプトを作る。そして、UI/UXデザインのスペシャリストで、デザインAI推進PRJのPRJリーダーでもある齊藤が全体監修する体制で挑みました。

デザインAI推進プロジェクトの中で、本アクションに取り組んだユニット

AIの技術的な特性上、「ターゲット理解/分析」と「改善指標の設計/施策アイデアの発散」の2つのポイントで広く業務導入を目指しました。

AIの業務導入を広く図ったUXの検討フロー

今回の取り組みのポイントは、すでに定義されているUXデザインの業務プロセスに合わせてAIを活用できるポイントを示すことです。

いきなり「tips的にAIが使えるよ」と情報を出しても、日々の業務に深く根付かないと考え、すでに社内に浸透しているデザインプロセスの中でAIで代替できそうな業務がないか?という視点で考えていきました。

今回のアクションを進める上でのスタンス

すでにDMMでは、デザインセンターであるデザイン部の面々が、齊藤が研修として作ったUX検討フローを数年かけて、支援先の事業/サービスに多数導入し浸透させていました。

新たにデザインプロセスから提唱しだすと、浸透までに時間がかかるため「UX検討フローの型に沿って、その実務工程の一部をAIで代替していくような考え方」でアクションを組み立てました。

すでに浸透している「UX検討フロー」に沿って検証を行う

大きく「検証」「浸透」の2ステップに分けて、実務活用を検証し、デザイナー以外の職能メンバーも再現性を持って活用できるように推進しました。

アクションのステップ

まずは検証段階として、既存のUXデザイン業務のどこにAIを活用できそうか、デザインAI推進プロジェクトで収集した社内事例を選定、再現性を確保できるかの実証実験を行います。

「検証ステップ」の全体像

具体的には、業務プロセスごとにいくつものプロンプトを用意し、実際にAIに回答を用意してもらいます。 「業務で実際に使う観点でも耐えうる回答になるか?」という観点を踏まえ、プロンプトの改善を繰り返していきました。

AIの活用を検証したUXデザイン業務の一覧
プロンプトをいくつか用意し、実際の事業のUXデザインプロセスを対象に検証を繰り返す

結論として、制約条件を明確にしながら業務フローを段階的に追って回答してもらうことで、「ターゲット理解/分析」と「改善指標の設計/施策アイデアの発散」のプロセスであれば精度の高い回答が得られることが分かってきました。

AIの活用が実務レベルでも可能なUXデザイン業務を整理した図

(イメージがしやすいように、本事例の最後に研修で利用したプロンプトを掲載していますので、ぜひご活用ください)

次に、今回見つけたAI活用手法を、デザイナー以外も含め所属組織に関係なく浸透していきます。

「浸透ステップ」の全体像

具体的には、過去に開催した「UX研修」を踏襲しながら「生成AI活用アップグレード版」と題して、社内向けに研修イベントを設置することにしました。

アップグレード版という形で提供することとしたのは、前述の通り、すでに浸透している業務プロセスを一部アップデートする、という立て付けにすることでハードルを低くし、デザイナーだけでなく広く社内に受け入れてもらうことができると考えたためです。

「UX研修 生成AI活用アップグレード版」を開催

研修内容としては、「検証ステップ」にて一部の事業をサンプルに検証してきたAI活用プロセスを、参加者が所属する事業を題材に、それぞれプロンプトを実行してもらう実践型のワークショップとなっています。

研修は、実践型のワークショップ形式で実施

このような形で実施した背景には、深く広い浸透と、応用事例の収集の2つの目的がありました。浸透だけでなく、実務利用できるプロンプトの検証のためにも、サンプルを一気に増やしておくことが重要でした。

  • 深く広い浸透

    • オンラインワークショップ形式なので、AIの利用経験が少なくても一緒に試せる

    • すでに浸透しているUX検討フローに沿っているので、行っている内容の理解が早い

    • 参加者一斉に実践するので、他者の成功事例もその場で見て成功体験を共有できる

  • 応用事例の収集

    • 短時間で多くのメンバーに使ってもらい、再現性が担保されるかを検証する

    • その場で生まれる、応用例や事象を得て今後のプロンプトの精度向上の糧にする

Slackのチャンネルで広く募集をかけたところ、100名を超える申し込みが集まりました。

Slackのチャンネルに呼びかけ、全社から100名を超える申し込みが集まる

すでに定義されているUXデザインプロセスを前提とするために、参加者には過去のUXデザイン研修の動画を見てきてもらうように宿題を出しています。

過去の研修動画を事前に確認するように、参加者の方にお願い

当日も実践形式で、各事業部の状況に合わせてプロンプトを実行してもらいました。

用意したプロンプトのイメージ

ワークショップの結果として、合計で約250件ものアウトプットを一気に生みだすことができました。

アウトプット一覧

参加者の実感としても「今回のプロンプトの精度は事業に耐えうるものである」という感想が生まれていました。

今後は彼らを中心に、DMMの各事業部へAIを活用したUXデザインプロセスが浸透していくことを期待しています。

研修の参加者からの感想まとめ

デザインへのAI活用は、まだまだ日が浅く、AIモデルの進化と合わせ日進月歩の領域です。

今回紹介したUXデザイン以外の分野でもバナー生成やLP生成など、デザインAI推進プロジェクトメンバーを起点に様々な業務導入と応用のサイクルが回っています。

DMMで取り組まれている、AIを活用した実務でのアウトプットの一部

DMMでは、先陣を切ってAIを活用することで、新しいデザインプロセスをいち早く実証できている組織であり続けることを目指しています。

DMMがAI活用において目指している像

このようなテクノロジーと共に新しいデザインプロセスをサービスに活かしたい方は、ぜひDMMのデザイン組織に参加いただければと思います。

最後に、今回開発した、実務でも利用可能性が高いと判断している「ペルソナ作成」のプロンプトの一覧をこちらにまとめました。お手元のLLMの生成AI (例:ChatGPT 等)で、よろしければ試していただけると嬉しいです。

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1. AIを用いてターゲット属性の「生成」を行います。

プロンプト (*下記のうち、{任意のプロダクト名} と記載された箇所については、ご自身の調べたいサービスに応じて変更した上で、生成AIで実行してください。)

#命令書 あなたは、UI/UX設計のプロフェッショナルです。 {任意のプロダクト名 or サービス名} の体験設計をする際、ペルソナを考察する必要があります。 以下の #制約条件 と #出力形式 に従って、 #キーワード に関して #属性情報 を生成してください。 #キーワード について箇条書きで教えて下さい。 #制約条件 ・#キーワード について連想される人物像 #属性情報 を10個生成する。 ・#属性情報 は ①-⑩ のシチュエーションに紐づくものにしてください。 ・#属性情報 は できるだけ短文にし、最大20文字以下にしてください。 #キーワード {任意のプロダクト名、利用頻度、年齢、性別} #属性情報 ①その人の性格特性を表すキャッチフレーズ ②働き方(フルタイム、リモートワーク、自由業など)・それについて感じている事 ③住居タイプ(マンション、一戸建てなど)・居住区 ④金銭感覚・消費スタイル ⑤どのようなガジェットに興味があるのか・使用頻度 ⑥価値観として重視しているもの(家族、仕事など) ⑦趣味・興味 ⑧どのようなタイプのコンテンツに興味があるか(本、映画、ニュースなど) ⑨登録しているYouTubeチャンネル・他のSNSでのフォローしているインフルエンサー ⑩モチベーションの源や満足感を得る場面 #出力形式 表形式

2. 生成したターゲット属性の「選定」を行います。

プロンプト (*下記のうち、{任意のプロダクト名} と記載された箇所については、ご自身の調べたいサービスに応じて変更した上で、生成AIで実行してください。)

ありがとうございます。 次に、上記①-⑩のうち{任意のプロダクト名 or サービス名}の体験設計する際に重要となる5項目に絞ってください。

3. 選定したターゲット属性を「深堀り」し、より詳細な人物像にしていきます。

プロンプト

#命令書 あなたは、UI/UX設計のプロフェッショナルです。 以下の #制約条件 と#出力形式 に従って、 #ステータス に関して #属性情報 の深掘りを行ってください。 #ステータス について箇条書きで教えて下さい。 #制約条件 ・#ステータス の①-⑤項目を総合して、#属性情報 を分析・生成してください。 ・分析は必ず客観的で分かりやすく、説明の過不足が無いようにしてください。 ・分析は仮定でもよいので具体的かつ「の場合もある」は使わずに詳細に断定してください。 ・最後に、その人の生活スタイルをストーリー立てて文章化してください。 #ステータス 直前に出力した属性情報の5項目 #属性情報 ①年齢・性別・国籍・家族構成 ②職業・個人年収・世帯年収 ③住居種別・物件種別・家賃 ④ブランド・平均価格・月あたりのお小遣い ⑤使用端末・端末仕様・契約回線(契約回線費用)・よく利用するアプリ #出力形式 表形式

4. 「生活サイクル (タッチポイント)」や「生活についての価値観」を生成。より具体的な人物像に近づけます。

Step1:生活サイクル|プロンプト

#命令書 あなたは、UI/UX設計のプロフェッショナルです。 以下の #制約条件 と#出力形式 に従って、 直前に出力した人物の1日の生活サイクルと行動のタッチポイントを表示してください。 #制約条件 ・直前に出力した人物の1日のタイムスケジュールを表示すること ・タイムスケジュールは平日と休日の2パターンを表示すること ・スケジュールは「家事」「買い物」などのカテゴリのみ表示すること ・行動のタッチポイントがあれば、スケジュールの右隣にカッコ書きで記載すること ・タッチポイントは人物の使うデバイス、サービスについて記載する  例)起床(スマホ)、買い物(小売店 店舗)など #出力形式 ・表形式で以下のような構成にすること 1列目: 00時〜23時までの時間を1時間刻みで記載 2列目: ペルソナがその時間帯に行っていることを記載

Step2:衣・食・住の考え方|プロンプト

#命令書 あなたは、UI/UX設計のプロフェッショナルです。 以下の #出力形式 に従って、 直前に出力した人物の衣・食・住に対する考え方について表示してください。 #出力形式 ・箇条書きで衣・食・住それぞれで以下のような構成にすること 1行目:【ジャンル名:現在の生活スタイルを総括したタイトル】 2~5行目:直前に出力した人物が、現在の生活に対して考えていること。 ポジティブなこととネガティブなことを両方記載してください。 (満足していること、大事にしていること、不満、要望)文体はその人物が話していそうな形にしてください。 例) 【衣:一般流通・価格帯を利用】 ・衣服や化粧品の最新トレンドはもう追えない ・利用金額は月5000円が限度。早くセールが来ないかな etc

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