GMOメディアには「カルチャーデザイングループ」と呼ばれる、全社の戦略人事を経営者と共に実行するチームがあります。
2024年4月に立ち上がってから約半年で、全社向けの採用基準や1on1などの仕組み、バリューの浸透のための施策などを進めてきました。
そして、この組織は、実はGMOメディアのデザイン組織である、サービスデザイン部が運営しています。
なぜデザイン組織が全社の戦略人事機能に大きく関わっているのか?その裏側には、デザイン組織として信頼を掴み、その貢献範囲を広げてきた試行錯誤がありました。
私は、デザイン組織と全社の人事機能の相性はとても良いなと思っています。なぜこのような組織立ち上げに至ったか?なぜデザイン組織が運営をしているのか?という点についてまとめてみます。
GMOメディアのサービスデザイングループは、2019年に部署として立ち上がりました。各事業部に横断的に入り込む、サービスデザインを役割として持ち、20名ほどのメンバーが所属しています。
2023年から、少しずつ全社横断の組織施策を(こっそり) 推進し始め、2024年に本格的に「カルチャーデザイングループ」という組織の運営を行いはじめます。
カルチャーデザイングループには、サービスデザイン部のデザイナーと、コーポレートの人事、広報が所属し、全社向けの採用基準や1on1などの仕組み、バリューの浸透などを受け持っています。
GMOメディアでは各プロダクトごとに事業部が設けられており、デザイナーとエンジニアは職種別の横断組織として独立した部署となっています。
これらの組織では、それぞれに採用計画を立て、育成施策を打っていました。
もちろん人事やコーポレートの方はいるのですが、(詳しくは後述しますが) なかなか全社横断の戦略を実行できていない状況となっており、ビジョンやバリュー、横断的な採用基準などはなかなか浸透させられていませんでした。
デザイン組織を統括する私個人の目線としても、デザイン組織として活躍の範囲を広げるためにも、このような組織機能が必要なのではないかと感じていました。
GMOメディアのデザイナーは、サービスをつくるプロセスすべてに関わっています。ただ、プロダクトは複数の人が関わってできており、デザイナーだけがどれだけ良い振る舞いをしても、チーム全員が同じ方向を向き、価値観を共有しながら前進しなければ良いプロダクトに繋がるわけではありません。
サービスデザイン部では、デザイナーやデザイン組織が成長することで事業成長につながるというサイクルを構築するために、「ぐるみ」と呼ばれる育成施策などを繰り返してきました。
ただこれからは、そのような組織を育てる仕組みを全社規模で運営しなければいけない。それが良いプロダクトをつくることに必要なことである、とそのようなことを考えていました。
このようなことを考えていたからといって、いきなりサービスデザイン部が「やります!」と宣言しても、「え??」となるだけだと思います。
意気揚々と、確実に、GMOメディアに全社横断の組織機能が置かれるように、少しずつ地固めをしていったのが実際の流れとなります。ここからは、少しでも再現性が持たせられるように、具体的なプロセスをまとめてみます。
まずは、各事業部の決裁権がある人 (主に事業責任者や部門長) を集め、課題感を共有するところから始めました。
意識したのは、あくまでサービスデザイン部として感じている課題感を共有し「これは他の事業部でも起こっていることではないですか?」と聞いていくようなスタンスを取ることです。
サービスデザイン部として取り組んできた組織課題の例も参考にしつつ、全社での戦略人事的な課題が無数にあり、これらをできるところから一緒に解決していきましょう、と合意を取ることができました。
実績がわかりやすく出るまでは、会社からすると「なんでやってるの?」となりうる話なので、私や、サービスデザイン部のマネージャー兼チーフデザイナーの出井が中心となり、どんどん課題を洗い出して、すぐに解決できるところからコツコツ解決を試みていきました。(この時点では、正式に経営層には共有をしていません。)
少しずつ、勝手にできる範囲 (ex. 採用基準の目線を合わせる) が終わってきたので、ここで経営層を巻き込んだアクションを始めます。
具体的には、GMOメディアに「1on1制度」を導入することを提案しました。
1on1が必要だと考えた背景は、採用基準などをすり合わせたとしても、実際に採用において働きたいと思ってもらうためには内部の人材が成長している必要があると思っていたためです。
属人的に1on1を実施するのではなく、全社として1on1を制度として取り入れていくことが必要だと考えていたので、実施頻度や対話内容、参考資料なども丁寧にキャッチアップできるように制度を整えて提案しました。
経営層に提案を行い、これまでの活動の実績も含めて信頼してもらえたため、実際に制度として取り入れられ、1on1の運用が開始されることとなります。
このタイミングで、1on1制度をはじめ、他にも全社的な人事機能が必要であることを、定期的に代表と意見交換ができる食事会の場で、代表に対して直接ぶつけてみました。
翌日、代表から「人事と意向交換をしてください」「彼らもやりたくても、我慢してやれてない現実もあるだろう」とお伝えしてもらい、人事へのヒアリングを行うことになります。
ヒアリングの結果、人事の方たちも「課題にはもちろん気づいているが、ただどうしてもリソースや、事業ごとに分断している組織構造ゆえに、なかなか課題解決に動けていない」ということが分かります。
GMOメディアにとって、横断的な人事機能は必ず必要であり、それを運用するためには実行部隊が必要である、ということが合意されてきますが、この時点では誰がオーナーシップを持つべきか、ということまでは決まっていませんでした。
私も、サービスデザイン部としてオーナーシップを持つべきかどうかは分かっていませんでしたが、問題を解決することが必要だと感じていたので、引き続き、どのような体制で戦略人事機能を持つべきなのかを決めるための活動を始めていきます。
2023年末から、2024年3月ごろまで、代表、人事、サービスデザイン部の数名で、どのようにGMOメディアに戦略人事機能を持たせるべきなのか、何を実行していくべきなのか、の議論をはじめます。
基本的に岡本が中心となって、組織の課題や、取り組むべきアクション、実行の体制についてのアジェンダを持ち込み、ディスカッションしていきました。
あらかた方針が決まってきた後、最後の論点として「人事に機能を持たせるべきか、サービスデザイン部に機能を持たせるべきか」という推進者についての議論となりました。
もちろん「普通に考えたら、人事が持つべきだろう」という意見もありました。私ですら「確かになんでサービスデザイン部が人事機能を持つんだろう」と、冷静になるとよくわからなくなってしまったりもしていたのですが、
代表から「これまでも人事はやりたくてもやれなかった現実がある。ここまで推進をしてくれている二人の熱量を信じてみたい」と言ってもらい、結果的にサービスデザイン部の中に、戦略人事機能を担うグループを組成することが決定されました。
補足しておくと、「組織の課題を解決するアプローチとして、問題を可視化するデザイン思考的プロセスは有用ではないか?」という仮説を実証したい気持ちが、デザイナーである私の中に存在していたのも事実です。
そうして、2024年4月に、岡本をリーダーとして、サービスデザイン部付で「カルチャーデザイングループ」が誕生しました。
カルチャーデザイングループの活動の軸は、以下の3つと定義しています。
この1年間は、人事部のような横断機能がなかったことで、やりたいけどやれていなかったことを、優先度が高いものから順に行っていくことを意識して、ロードマップを組んでいます。
例えば、GMOメディアのビジョンやバリューを改めて解釈しやすいように、ステートメントを作成 / ビジュアライズを行い、カルチャーデザイングループに新たに配属となったデザイナーの大谷が社長の代わりに全社朝会でプレゼンするなどの施策を行いました。
他にも、企業理念やバリューへのタッチポイントを増やす施策を行っています。
例えば、その一つとして、「GMOインターネットグループ全体で行われるイベントでMVPを獲得した社員」 = 「バリューを体現している社員」と位置付け、 彼らのポスターを作成し、オフィスに掲示しています。
また、全社での採用基準を策定し、浸透していくために事業部も巻き込んで採用フローを整え直すなど、これまでに行われていなかった全社での戦略人事機能に片っ端から取り組んでいます。
カルチャーデザイングループの初年度の目標としては、「これまで着手されていなかった横断組織施策を拾えるだけ拾い、できる限り仕組み化して稼働させていく」こととしています。
前述したように、これまでにも理念浸透のためのアクションや、採用フローの整備など、幅広くアウトプットを出してきました。
まずは2025年3月を期限として、何かしらの結果を生めるかどうかを検証しているタイミングですが、この事例をまとめるタイミングでヒアリングしてみたところ、すでに定性的にもいくつも効果が生まれ始めているようです。
また、「バリューを体現したパートナーを讃えよう」という目的で、ピアボーナス制度であるUniposを、カルチャーデザイングループ発足後から利用促進していました。
ピアボーナス制度自体は2020年から採用していたものの、ここ1,2年ほどは利用が下火になってしまっていました。ただ、カルチャーデザイングループからバリュー浸透施策を継続的に打ち続けて行ったところ、結果的に、9月には直近1年の利用率で最高値になり、Unipos内で利用されるワードもGMOメディアのバリューのひとつである「誠実」がトップとなりました。
やってみてわかったことですが、サービスデザイン部として戦略人事機能を担うというのは、専門性の観点でも非常に相性が良かったと思います。
理念やバリューの意義付け、ヒアリングを多く交えて、優先度がついていない施策を、改めて要件を定義するところから課題やソリューションの整理を行い、アウトプットとしても仕組みやビジュアルによって解決できる範囲が多く、プロダクトをつくっていく思考と非常に近いなと感じています。
人事機能は、デザイン組織だからこそ行える余白が大きくある領域で、他の組織でも再現性がある取り組みなのではないでしょうか。(私たちも、MIXI DESIGNさんの取り組みをとても参考にしています。)
デザイン組織として人事機能を担うべき理由は「プロダクトはデザイナーだけでつくっているわけではなく、良いプロダクトをつくるためには社員全員の成長が必要」だからです。
GMOメディアのサービスデザイン部が考える「デザインが事業に当たり前に貢献できている状態」をつくるためには、全社組織に貢献することは必須でした。
ただ、私たちがこのような領域まで役割を広げていけているのは、これまでのプロダクトデザイン面での貢献があってこそだと思います。(例えば、サービスデザイン部が立ち上がった瞬間に「全社人事機能もやります!」と言っても絶対に相手にされなかったと思います笑)
少しずつ、成果を出せることを証明し、類似の領域にもチャレンジしてみる。そこでも地道な地固めから成果を積み上げていく。そうすることで、大きな役割を任せてもらえ、そこで成果を出していく。
デザイン組織に限らず、事業会社に所属する部署として、このような思考をすべきなのだと感じています。まずはサービスデザイン面に加えて、組織デザイン面でも成果を出し、さらに大きな役割に貢献することで、GMOメディアという会社自体を成長させていこうと思います。