DMM.com (以下、DMM )のデザイン組織ではAI を活用し、事業に対して説明責任を果たせるデザイナーを増やす取り組みが進んでいます。
現場ではすでにデザイナーの責任範囲が拡張している例がいくつも生まれています。
DMMのデザイン組織はこの5年間、デザイナーのスキルアップや事業からの信頼獲得に注力してきました。
その結果、スキルセットの高いデザイナーが増え、事業からの信頼も積み上がり、デザイン組織への期待が高まっています。その一方で「事業側と対等に議論し、説明責任まで果たす」には個人差もあり、課題が残っていました。
このタイミングで AI が急速に進化しました。この2つの文脈を踏まえ、DMMのデザイン組織では、デザイナーの説明能力を向上させるためのツールとしてAIを活用することにしています。
ここからは実際にデザイナーの責任範囲が拡張した2つの事例について、各担当デザイナーの視点で紹介していきます。
DMMのデザイナーの二口です。私は、新規事業である「DMM Lifestyle事業群のブランド立ち上げ」を担当しました。
本プロジェクトは「DMM旅行予約」をはじめとした複数サービスを包括するDMM Lifestyleブランドの設計を目的としたものです。今後、さまざまなサービスで立ち上げと合わせてロゴ制作が必要になることを見越して、まずは事業群全体のブランドの軸を関係者と定め、今後の派生プロダクト全体のロゴ・クリエイティブをつくりやすい状態をつくりました。
これまで、このようなプロジェクトに私が入る時は、他のデザインリードと一緒に、複数のロゴパターンを出しながらアウトプットベースですり合わせる方法になりがちでしたが、今回私はAIを活用することで 今後の事業を見据えたブランドの軸の整理から意思決定までを一人で担う進め方 にシフトすることができています。
ここからは、DMM Lifestyle事業群のブランド設計から、DMM Lifestyleに含まれるサービスの一つであるDMM旅行予約のロゴ制作に至るまでのプロセスを具体的にまとめます。
DMM Lifestyleという事業群全体のブランドの方向性を決めないといけない、ということに気付いたものの、そのような範囲での意思決定はこれまで行ったことがありませんでした。
そこでNotebook LMに「あなたがアートディレクターだとして、どのように今回のプロジェクトを進めると良いかを教えてください。」と確認するところから始めました。
回答を受けて、ロゴの制作の前にまずは事業構造を体系的に整理することが重要だということに気づきました。そこで、すでに断片的にまとめられていた事業方針や外部会社が作成してくれていた調査資料を一枚絵にまとめ直し、事業構造に対するプロジェクトメンバーとの認識合わせをしています。
続けて、Notebook LMに競合サービスの事業ポジショニングを確認していきます。競合サービスの洗い出しや事業ポジションの整理をしてもらい、それを踏まえて市場構造を表すポジショニングマップを作成しました。
ポジショニングマップを何パターンかまとめた上で、適切な比較軸のマップをプロジェクトメンバー全体で合意。その上で、DMM Lifestyleの事業ポジショニングを改めて整理し意思決定しました。
ここからDMM Lifestyleのロゴコンセプトを意思決定しようと思ったのですが、その前にやるべきことがないかを改めてNotebook LMに確認します。
ロゴ自体の雰囲気や印象の意思決定の前に「今回つくるDMM Lifestyleのロゴがどういう役割を持つかを整理する方が良い」と教えてもらったので、それを受けてDMM Lifestyleのロゴの役割をまとめて意思決定しました。
この議論によって、DMM Lifestyleはそこに紐づく複数のプロダクトを持つサービス群であり、ロゴは「各プロダクトを支える器」のような役割を持つことが重要だと言語化することができました。
この「器」という方針を踏まえて、DMM Lifestyleのロゴコンセプト案を改めてマトリクスで整理し、最終的に「プリミティブ=どっしり × フォーマル=かたい」という印象のロゴコンセプトを意思決定することができました。
DMM Lifestyleというサービス全体のブランドの軸を決めた上で、そこに紐づくプロダクトであるDMM旅行予約のロゴを固めていきます。
まずは旅行サービスの市場環境を整理するために、Notebook LMに競合サービスの洗い出し、サービスのロゴコンセプトのキーワードの抽出を行ってもらい、競合サービスのロゴを印象別にまとめたマトリクスを作成しました。
マトリクスに沿ってDMM旅行予約のロゴ案を提案します。持たれたい印象についてプロジェクトメンバーと議論しながら、ロゴ案の調整を行いました。
サービス全体のブランドの軸とDMM旅行予約のロゴのポジションまで意思決定した段階で、私は別案件に移ることとなります。
それでも、このタイミングから加入した別のデザイナーがプロセスを引き継ぎ、ロゴをスムーズにFIXさせてくれました。
これ以降のDMM Lifestyleのサービス群のロゴ作成も同じプロセスで制作が進められているようです。AIを活用しながらブランドの議論を進めたことで、誰でも再現性がある形でブランド構築を進められるようになったことがこのプロセスの副次的な効果となりました。
DMMのデザイナーの野崎です。私はDMMアフィリエイトの大規模リニューアル を約2年間担当しています。
当初の私の役割はプロダクトのUI/UX 改善が中心でしたが、プロジェクトの中で関係性が深まっていくにつれ
企画から仕様を検討
効果測定の仕組みを運用
などプロダクトマネジメント領域にまで役割が広がっています。私はプロダクトデザインを超えた役割範囲を担うために、AIを活用したプロダクトマネジメント知識の補完を行っています。
DMMアフィリエイトの機能改善のためには、さまざまなドメイン理解が必要になります。例えば「インボイス制度」「税額控除」など、細かく制度を理解しなければ必要なコンテンツもイメージできない場面も多くありません。
このような前提となるドメイン理解もAIと壁打ちしながら思考を整理し、議論のスピードを落とさずに事業推進のための会話を進められるようにしています。
アフィリエイトサービスには競合プロダクトも多いので、プロダクトの仕様を詰めていく段階で競合分析は必須となっています。この競合分析もAIを活用することで効率的に行えるようになっています。
例えば、マーケターの方から企画アイデアを共有されたあとに、プロダクトデザイナー側でモックアップを制作するだけでなく、該当する機能を利用した際のユーザーの行動変容の仮説立てや、競合プロダクトのUX考察まで行えるようになりました。
機能アイデアに対して
競合サービスの洗い出し
各サービスにどんな機能があるか / UI/UXの特徴を確認
ユーザーが一般的に求める行動を整理
などの情報をすぐさま収集し、確度を高めて仕様検討をサポートすることができています。
施策リリース後の効果測定の仕組みの設計や運用にもプロダクトデザイナーとして関わるようになっています。
きっかけは、とある機能のリリース後にマーケターの方から「UI/UX観点の効果測定はどのように進めると良さそうか?」と相談をいただいたことでした。
私はコンテンツやプロダクトの施策の効果観測の仕組みづくりにはあまり経験がなかったのですが、AIと壁打ちしながらチーム全体でどのような効果測定の体制を構築していくと良いかをまとめることができました。
プロダクト全体としての効果測定の体制まで見通した上で、今回の機能についての効果測定を行うためのデータ回収や、改善案の提案までをミニマムに進めています。
UI改善だけでなく事業全体に責任を持っていく上で、「経験がなくてもまずはやってみる」というスタンスが必要になっていきます。思考を補完してもらうパートナーとしてAIを活用することで、経験のない領域でも、進め方や実験してみることのたたき台をつくりやすくなり、責任範囲を広げていくことに躊躇しなくても良くなっていると感じます。
2つの事例以外にも、AI 活用によってDMM全体でデザイナーの責任範囲が広がった事例が多く生まれています。
DMMのデザイン組織では、これらのベストプラクティスがうまく組織全体に広がるように仕組みや制度のアップデートを複数行っています。
例えば今回紹介した2人の事例のような動き方は、採用・育成の指針としている「求める人材像」に合致しています。採用・育成方針と連動して、各人のベストプラクティスが増えていくような流れができています。
また、これまでデザインスキルの向上に重きを置いていた等級制度に基づく人材像をアップデートしました。
事業に対する説明責任まで果たせるか
長期的な時間軸を見据えたアウトプットを出せるか
という2点が評価の対象となっており、各等級の行動例として今回のようなベストプラクティスを紐づけています。
DMMのデザイン組織全体でのデザインスキルの高まりに加えて、AIによりビジネス観点に紐づける説明能力が向上したことで、事業成長のための議論にデザイナーが参画する期待やニーズが増しています。
DMMのデザイン組織は、「つくる力を持った人を増やすフェーズ」から「事業に貢献できるデザイナーを増やすフェーズ」へとさらに前進していきます。
デザイナーがビジネスの中心でより広く貢献するためには、これまでに培ったつくる力に加えて、事業への説明能力を身につけて事業全体を動かしていけるデザイナーを増やす必要があります。これを実現するためには、事業への説明能力をAIで補うことが不可欠です。
AIとコラボレーションして説明能力を担保しつつ、AIを扱って高品質なアウトプットを仕組み化できる人材を増やしていく。
デザイン組織としての成熟期に、AIを大きく活用することで、さらに事業会社で長く活躍できるデザイナーを増やしていきます。