約60の事業と、100名以上のデザイナーを抱えるDMMのデザイン組織。その一番の特徴は、「事業貢献に向けたデザイナーの役割」が明確に定義され、組織としても事業貢献に向けた仕組みを用意できていることにあります。
これまでにも、DMMのデザイナーが事業を推進してきた16もの事例をCocodaで公開してきました。
事業への貢献ができることを強く求められるDMMデザイナーの役割や、デザイン組織としてどのように事業貢献をサポートしているのか、DMMのデザイン組織づくりを主導している齊藤さんにお聞きしました。
本事例では、デザイン組織をつくる人が直面する、以下のような悩みに答えていきます。
- デザイナーが、事業に貢献するためには?
- 事業への貢献を生むために、組織としてどのような仕組みをつくるべきなのか?
——DMMのデザイン組織には、100名以上のデザイナーが所属しています。一方で、世の中全体で見ると、事業会社でインハウスのデザイナーとして働く中で、うまく活躍できていないと悩む方も多い状況です。DMMでも同じような課題はあったのでしょうか。
DMMでも、インハウスデザイナーとしてどのように振る舞うべきか悩んできた歴史があります。
2018年当時のDMMは、縦割りでの事業組織毎にデザイナーが少数名ずつ所属する形をとっていました。しかし、事業運営上で発生する多種多様でリソース増減の激しい要望に、小数名のデザイナーのみで応えることは難しく、徐々に横断化が進んできた経緯があります。
要望に応えられない原因は様々ですが、多くに共通している点に以下がありました。
デザイナー以外の職能の人がデザインの良し悪しが判断できず、「事業やプロジェクトの課題解決ができるデザインか?」と根拠を添えた説明を求める
デザイナーは、そもそも「事業やサービスの課題」が共有されていないので、「事業やプロジェクトの課題解決ができたデザインか?」という根拠の説明ができない
と、このような事が多発していました。
——そのような状況から、今では事業推進の役割として、強くデザイナーが求められるようになっていると思います。何がDMMのデザイン組織にとって転機となったのでしょうか?
DMM全体として新規事業を立ち上げることに力を入れており、現在で約60の事業を運営させていただいています。現在に至るまで、個々の事業の力をDMM全社としてのシナジーの力に増幅することが必要であるという経営指針も、追い風となりました。
当時は、UI/UXのスペシャリスト職でしたが、多くのデザイナーからの相談やメインプロダクト以外からの支援要請が多くなっていきました。
私自身もデザイナーとしてキャリアを始めたものの、制作だけに関わる役割では事業に対して貢献できないままだと悩み、ディレクターも兼務するようになっていたため、その経験が必要とされたのだと思います。
以降、横断型のデザイン組織立ち上げと拡充に注力していくこととなります。
——「デザイナーがより事業に貢献するためには」というテーマは、インハウスで働く多くのデザイナーにとって共通する悩みだと思います。DMMでは、どうすればデザイナーから事業に貢献できるようになると考えていますか?
DMMのデザイナーがやるべきことは「事業がユーザーに受け入れられるための方法を、ユーザー目線で考え抜く」ことと定義しています。
より具体的には、DMMではデザイナーが活躍する主力領域を
全社横断のUI/UX:全社横断のシナジーをUI/UXデザインを軸に「堅牢な全体性を作る」
サービス個々のUI/UX:事業的なシーズを、ユーザーのニーズと沿う形で「生み / 連結する」
サービス個々のCX/BX:ユーザーにファン化してもらえるよう「繋ぎ / 育てる」
としています。
DMMの全社横断のデザインセンターである「デザイン部」には、一つの組織の中にこの3つの要素がすでに揃っています。
例えば、新規事業開発に強みを持った状態でDMMに入社した方だと、以下のようなキャリアの変遷をDMMの中で得ることができます。
最初は約60ある各事業を担当して、貢献範囲を広げていく
その上で、より複数の事業を絡めた体験をつくるために、横断プラットフォームの体験づくりを担当する
長くDMMで働いていただくために、1つの役割だけでなく、他の領域に段階を追ってチャレンジしていただくことを可能とする異動や公募に関する人事制度も整備されています。
——例えば新規事業への関わり方でいうと、DMMのデザイナーは、ただ制作担当として関わるというよりも、ビジネスモデルの整理や、事業部としての戦略まで整理していくような動き方が特徴的だなと思っています。
そうですね、Cocodaでも公開していたように、ユーザーの声をもとに解決すべき問題を定義し、プロダクトに落とし込んでいくことと同時に、事業的なゴール/戦略とサービスの整合性も、PdMやPMと肩を並べステークホルダー全体の合意をとっていくように意識しています。
全社横断のUI/UXの事例としては、DMMポイントクラブの立ち上げの事例では、事業立ち上げ時点ではふんわりしたテーマしか決まっていないところから、定量/定性的なユーザー情報をもとに、解決すべき問題まで落とし込んでいます。
さらに、DMMポイントクラブに関わるさまざまな事業のゴールや戦略・想定される数値の伸び幅などを整理し、各ステークホルダーにとってもポイントクラブが生まれることに意義があると合意をとっていきました。
——プラットフォーム全体の横断的な体験設計についても、DMMならではの役割かと思っています。例えばどのような動き方を行っていますか?
全社横断のUI/UXと、サービス個々のUI/UXから、事業間のシナジーを生んでいくのが横断的に関わるデザイナーの役割です。
例えば、DMMの中にある約60ある事業がそれぞれ併用されるようになるようなことを狙っています。
具体的な例として、DMMのプラットフォーム全体での、初回訪問から購入・継続・ロイヤルユーザー化までのジャーニーを設計するような動き方をしています。
さらに、DMM全体での購買行動をもとに、顧客のロイヤルティー段階を整理、比率まで明確にすることで、どこに対して施策を打つべきなのかを組織全体で共通のものさしで会話できるようにしています。
また、サービス個々のBX/UXの事例として、プロダクトの認知面や販促面などをコントロールするために、制作ディレクションや、ブランドディレクションなどにも取り組んでいます。
——DMMのもう一つの魅力は、これらの事業貢献の動き方を、組織全体で再現できるようにしていることだと思います。デザイナーのパフォーマンスを属人的なものにしないために、DMMではどのような工夫をしていますか?
そうですね、事業貢献を促すための組織づくりとしては、大きく2つのポイントがあるかと思います。
一つ目のポイントは、事業フェーズの変化に対応して、デザイナーの強みが活かされるよう柔軟にアサインを変更していることです。
デザイナーそれぞれの強みと、事業のフェーズが噛み合うことはそう多くはありません。組織的に連携することで、各デザイナーの強みが発揮されやすい事業フェーズにアサインするサイクルを回しています。
DMMでは、約60の事業があるため、例えば、サービスの立ち上げ時の体験設計や、ブランディング、ロゴ制作など、専門性が高く一つの事業ではあまり頻度高く発生しない専門性だとしても、どこかしらでニーズが生まれます。
新規事業立ち上げが強みの方、ブランディングが強みの方など、それぞれの強みに合わせて、適切な事業にアサインしていくことで、事業のフェーズが変わったとしても常にパフォーマンス高く動けるように、全社横断組織であるデザイン部を軸に、連携できる体制を設計しています。
個人ではなく、チームとしてデザイン組織を捉え、それぞれのデザイナーの強みを活かしたアサインができるようにすることで、デザイン組織としても信頼が生まれていきます。
また、個々人のキャリアの面でも、幅広い事業に関わることができ、伸ばしたいスキルをより伸ばしやすい機会を得ることができるため、より早く成長することができます。
——もう一つの組織づくりのポイントは何ですか?
もう一つは、担当サービスを超えたデザイナー間の連携が生まれる仕組み化に力を入れていることです。
DMMは、100名を超えるデザイナーが約60の事業に関わっている組織ですが、一つのサービスのみに向き合うだけでは、ナレッジやコミュニティが閉じてしまい、時代の変化への対応も鈍化してしまうので色々な施策を打っています。
ナレッジ共有を促進する「DMMデザイナーポートフォリオ」
担当サービスを越えたコミュニティ「デザイン座談会」
AIによる時代の変化をデザイナー全体で受け止める「デザインAI推進プロジェクト」
——では、どのようにナレッジ共有を行っていますか?
Cocodaでも公開していますが、例えば、DMMのデザイナーがそれぞれのプロジェクトで取り組んだことを事例ベースで残す「DMMデザイナーポートフォリオ」を用意しています。
——担当サービスを超えたコミュニティづくりは、どのように行っていますか?
色々ありますが、代表的な事例としては「デザイン座談会」と呼ばれる、各デザイナーの動き方や考え方を全社に向けて発信する機会を定期的に用意しています。
このような事業貢献への型が溜まっていくことで、デザイナーから事業部側のメンバーと肩を並べて対話ができるようになります。そうすると、より良い情報を収集できるようになり、芯を食った提案ができるようになっていきます。
——「AIによる時代の変化」は各社対応に迷っているところだと思いますが、DMMではどのように向き合っていますか?
デザイン業界全体での技術進歩の流れを捉えて、2023年の後半に「デザインAI推進プロジェクト」という全社横断の枠組みを創設しました。
デザイナーが一人でAIを業務導入しようとしても、「AIを知り・試し・事業導入に対するリスクをケアする」ことがなかなか難しく、このままでは社外に向けたDMMデザイナーの差別化/競争力の低下になりかねないと考え、積極的な対処を行っています。
経営陣もAI利活用にはデザイン分野に限らず関心高く向き合っており、経営会議にて毎月のように「デザインにおける技術進展、利活用事例、全社的な対策」をレポートし理解を得て、推進を続けています。
デザイナーという職能は、大きな組織になると、孤立化し、現状維持に陥りやすい傾向にあります。
これらの仕組みを通してデザイナー同士がつながり、誰かの良いアクションが約100名のデザイナー全員へ広がることで、DMMデザイナーへの信頼が強くなり、より頼られる存在に成長できると考えています。
——結果として、DMMの中で、デザイナーはどのような存在になっていますか?
今回まとめたような事業貢献に繋がるデザイナーの動き方を通して、「抽象度の高い要求をデザインの力で形にしながら、事業構築やグロースのためにステークホルダーの議論を収束し推し進める」役割です。
この文脈は加速度的に要望が増加しており、今いるデザイナーだけでは人手不足になっているのが現状です。
例えば、このような活躍をしてくれているデザイナーですね。
【人物像A:UIデザイン × 調査・プロダクト設計】
【人物像B:UIデザイン × ユーザー体験の改善】
【人物像C: デザイン × データアナリスト】
——なるほど。では最後に、どのような想いを持つ人がDMMにマッチすると考えているか教えてください。
最も大事なのは、「事業やサービスに対して強く関心を持てる」ということだと思います。
前述したようにユーザー目線で、事業部の人よりも、事業のことを考え抜き、シーズとニーズが両立できるユーザー体験を描くことができるか。
さらには、ユーザーに必要な体験を持続的に届けるために、事業部との調整業務や、業務プロセスの設計などの俯瞰した仕事を行っているかどうか。
DMMでは、当初はスキル不足でも、このような活動に対して強い想いを持っているメンバーをこの数年で事業貢献を行える人材へ何人も成長させてきました。
期待が拡大していくデザイン組織の中で、事業に貢献するデザインに取り組む人をさらに増やしていきます。