東京海上日動火災を中心とした東京海上グループのシステム開発・運用を担う100%戦略子会社、東京海上日動システムズには、企画・プロダクトデザイン・開発を内製で推進するデザイン組織「Knot+」があります。
もともとエンジニアリングを担う開発組織が先行して立ち上がり、その後、2019年からデザイン組織の立ち上げが本格化。現在では、設立から約6年が経ち、14名のメンバーが所属し、グループ各署から信頼される存在へと進化しつつあります。
本事例では、そんなKnot+の立ち上げの背景と、実践を通じて東京海上グループにユーザー起点の視点を広げてきた軌跡をお伝えします。
Knot+が所属する、東京海上日動システムズのエンジニアリング組織は、データを活用し、お客さまとの接点を充実させ、新しいサービスやプロダクトをアジャイルで実現すること、DXを推進するシステムの開発を担うことを目的として設立された組織です。
多くの企業が外資系コンサルに依頼することが多い機能を、東京海上日動システムズは内製で担いたいと考えています。
当初はプログラミング中心の業務に従事していたメンバーの中から、デザインに関心を持つ有志が現れ、社内で自主的な勉強会やモックアップ作成などを開始。そのアウトプットをプロダクトオーナーに提案するようになり、徐々にその価値がグループで認識されるようになっていきました。
その後、Knot+の前身である、Designユニットが少し遅れて立ち上がります。Designユニットは、正式な組織化からわずか数年の時点で、グループ内の複数部門からUI/UXやユーザーインタビューに関する相談が寄せられるなど確かな存在感を示すことができ、より規模の大きなチーム「Knot+」へと昇華しました。
私たちは、これまでの保険代理店と連携した “人” によるサービスに、“デジタル” の体験を加えることで、新たな保険体験をつくることを目指しています。
もともと東京海上グループは、多くの保険代理店のみなさまと連携して、対面での説明を行う販売モデルを大切にしてきました。保険サービスはお客さまにとって理解が難しいものも多く、代理店による “人” からの丁寧な説明は欠かせません。
一方、スマートフォンでさまざまなサービスが完結する現代において、お客さまからはより利便性が高くスピーディーな顧客体験が求められ始めていると思います。市場全体でも、お客さまだけで保険申し込みが完結するような代理店不在のデジタルネイティブなモデルの保険サービスも増えてきています。
また、お客さまの属性によっては「人のサポートを受けて手続きを進めたい方」「デジタルだけでなるべく完結したい方」など、大きく傾向が分かれる可能性もあるため、ソリューション検討のための分析が必要です。
これまでの基盤を活かしながら分析を加え、「お客さまに寄り添った新しい保険体験」を構築していくことが求められていると考えています。
こうした課題に対して、内製デザイン組織であるKnot+は、単なるUIの整備にとどまらない、業務と顧客体験の両面を設計するデザインの役割を担うことで、具体的なプロジェクトやプロセスを通じて、東京海上グループ内にデザインアプローチを浸透させることを目指しています。
東京海上グループで、デジタルの力を取り入れていくために、これから何をやるにしてもシステム開発が必要となります。
東京海上グループのDXを推進するシステム開発を担う機関である東京海上日動システムズとして、エンジニアリングだけでなく、デザインの機能も育てていくことは必要不可欠です。
私たちKnot+が担うべきだと考えている役割は、大きく分けると3つあります。
最高の顧客体験を提供する “デザイナー” として
本当にお客さまに使われるものをつくるための “ゲート” として
企画の質を高める “イノベーター” として
最高の顧客体験を提供する “デザイナー” という部分については、多くの内製デザイン組織でも意識されているであろう役割と同じく「ユーザーにとって最適なインターフェースを提供する」という役割を指しています。
保険サービスは扱う情報が非常に多いのが特徴です。なので、意識しないと情報を詰め込みすぎた画面になり、ユーザーの体験を損ねてしまいます。
私たちは、情報の取捨選択や、インタラクション、ビジュアライズなど、最終的な触り心地にまで責任を持って、とにかく自然な顧客体験をつくることにこだわっています。
私たちは100%戦略子会社の内製デザイン組織だからこそ、その開発案件がお客さまにとって真に必要なものであるかどうかを判断するためのサポートも行っています。
東京海上グループでデジタルへの期待が高まっている一方で、開発リソースにはもちろん限界があります。限られたリソースでシステム開発を推進していくためには「本当にお客さまに使われるものだけをつくる」という意識を持つ必要があります。
「何となくこれが必要そう」という状態から、「これは本当に必要なものだ」と言い切れる状態にまで引き上げてから開発に進める。そのために、私たちKnot+は、調査やUIプロトタイピングを通して検証を進め、つくる/つくらないの判断を行いやすくする、いわば “ゲート” のような役割を担っています。
東京海上グループの提供する保険サービスは、契約手続き、事故対応、代理店支援など、多岐にわたる業務フローが絡み合う複雑な体験となっています。
こうした複雑な体験を、企画推進をするプロダクトオーナーだけで整理していくのは負荷が大きいので、企画からシステム開発に落としていく前に、ユーザー視点に加えて、現場の制約や業務ロジックまで理解したうえで、構造的に整理し直すことをKnot+のデザイナーとしてサポートしています。
私たちは、単なる制作部門ではなく、「上流工程に関与し、企画の質を高める」ことにも責任を持ちたいと考えています。
例えば、プロダクトオーナーと一緒にユーザーインタビューの設計やモックアップによる仮説提案を行うなど、「仕様が決まった後に見た目を整える」のではなく、「どんな体験をつくるべきかを最初から共に考える」ために、依頼が来る前から動き出すようにしています。
これは、内製デザイン組織だからこそできる役割だと考えています。
外部ベンダーとのシステム開発の場合は、契約範囲や納期、事前に決められた要件に基づく対応が中心となり、ユーザー体験に基づく本質的な提案や、柔軟な方向転換が難しいことがどうしても多くなってしまいやすいと思います。
一方、Knot+は内製組織であるため、企画を推進するプロダクトオーナーと日常的にコミュニケーションできる関係性にあります。この立場を活かしながら、スピーディかつ本質的な議論を起点に、プロダクトやサービスの価値そのものを共につくっていくことが、私たちならではの価値になるはずだと捉えています。
このような理想を掲げつつ、社内にデザイン組織が不在な状況から立ち上げを行うには「組織成熟」と「社内からの期待を生む」ことの両方が必要となります。
実際、東京海上日動システムズにDesignユニットを立ち上げた当初、デザイナー経験者は不在なところから始まっており、「東京海上グループに適した、デザインプロセスの構築」から取り組み始める必要がありました。
「デザイナーが充足しているわけではない状況で、どのようにデザインの価値を構築するのか?」
この課題を解決するために、組織設計の変遷は、以下のような流れで進めてきました。
Designユニット発足のそもそものきっかけは、エンジニアメンバーの中でデザインに関心があるメンバーが有志として、デザイン支援を提供し始めたのが始まりです。
この段階では、まだまだデザインへの注力を推し進める雰囲気ではありませんでした。デザインでできることのイメージも明確ではなく、プロダクトオーナーにデザインの必要性を訴えかけても、うまく有用性を理解してもらえないような状態が続きます。
この状況が変化したのは、東京海上グループとして「デジタル体験への注力」が意思決定されたことです。トップダウンで「デザインが上流に入っていくこと」が求められ始め、有志で動いていたエンジニアメンバーがデザイナーにコンバートする形で「Designユニット」が2019年に立ち上がりました。
とはいえ、これまでデザイン起点で案件に入り込んだ経験が十分あるわけではないメンバーが集まっても、「そもそもどう案件を進めれば良いのか?」というところから分かっていないのが正直なところでした。
そこで、最初にフォーカスしたのは「外部パートナーを巻き込んで、理想的なデザインプロセスを構築」することでした。
とあるデザインコンサルティング会社のデザインの専門家の方にチームに入っていただき、ユニットのメンバー+外部パートナーの方という布陣で、ペアで案件をいくつか回してみます。
その連続の中で、東京海上グループに最適なデザインプロセスとはどのようなものかを仮説として設計しました。
デザインプロセスを構築した後は、少しずつ「デザインの有用性を示していく」ことにチャレンジしていきます。
2019年、2020年、2021年、、、と年を追うごとに少しずつ関われる案件や、案件を通した実績が生まれていきました。
例えば、東京海上日動ホームページの「お客様サポート」のリニューアルなどは、デザインプロセスを回して実績を出すための実験的なプロジェクトの位置付けで取り組んでいます。
2023年以降には、プロセスもかなり成熟してきて、企画から推進している案件が多数生まれてきました。また、結果を浸透させるために、社内外に向けた認知拡大の施策も増やせてきています。
このような実験を通して、デザインプロセスの有用性が検証できてきたため、組織体制の構築にも取り組んでいきました。
プロセス構築と同時に、それを実行していく人員も合わせて必要であることをコミュニケーションして合意を取っています。
案件推進と並行して、2020年、2021年、、と体制が拡大していきます。
他にも、企画推進のために工夫していることもあります。
例えばその一つが、「価値検証枠」という仕組みです。通常の案件を推進しているだけでは、それだけでリソースがいっぱいになってしまいます。
なので、イノベーション的に新しいことに取り組むことができる工数枠だけあらかじめ確保しておき、この枠を通じて、例えばまだ依頼をもらっていない (案件になりきっていない) 提案などにも積極的にデザイナーが入っていくように促しています。
また、定性的な調査によるプロセスが体系化できてきた一方で、定量データを扱った調査についてはうまく体系化できていない課題を踏まえ、データに専門性を持つデザイナーが、デジタルマーケティング部署に兼務する形で、定量/定性をかけ合わせたアプローチを行える体制も構築していきました。
これまでの取り組みで、たくさんの実績が生まれてきました。例えば、新規事業である「エージェント+」のUIリニューアルを、定量/定性両方の調査から推し進めてきた事例。
他にも、東京海上日動ホームページの「お客様サポート」という機能を、お問い合わせデータや、ペルソナへのインタビューを通して改善していく事例。
このような、単なる制作にとどまらず、企画フェーズの「何をそもそもやれば良いか」というところから入り込み、ユーザー起点で企画・インターフェース設計・開発を推進していけるような組織が構築できてきました。
組織の体制も拡大しており、当初はエンジニア出身のメンバーが2名で立ち上げた組織も、現在は14名に拡大。中途入社のシニアなデザイナーや、データに専門性を持つメンバーなど、多様な専門性を抱えられています。
実績が出せることが分かってきたので、これからは、この活動をさらに東京海上グループに押し広げていくフェーズに入っていきます。
当初から、私たちの活動のゴールは、最終的には「全社的な取り組み」にしていくことだと考えてきました。自分たちが率先してデザインの活用の有用性を実践し、その活動を全社に押し広げられることが最終的には必要です。ここに向けてさらに取り組みを強めていきます。
東京海上グループは、今、デジタルの力を活かして、新たな保険体験を構築しようとしています。
お客さまの多様化や、ビジネスモデルの見直しに対して、エンドユーザーが本当に求めているものを発見し、そこに最適な体験を提案していけるのが、デザインの力であるはずです。
東京海上日動システムズの内製デザイン組織であるKnot+は、単なる制作にとどまらず、時代にフィットする体験をつくっていくことに寄与していきます。
Knot+を通した成果もいくつも生まれています。今後も事例として公開していきますので、ぜひこちらも合わせてご覧いただければと思います。