創業から50年以上の歴史を持つ総合ITサービス企業、TIS。2022年4月、TISで初めてデザインを冠する部門として「クリエイティブデザイン部」が誕生し、その中でUXデザイン専門チーム「XD Studio」が活動を開始しました。
XD Studioは、生活者にどのような体験をもたらすのか、「使ってみたい」「使い続けたい」と思ってもらえるかといった、意味や価値を創造することを重要視し、お客様と共に創り上げるさまざまなサービスの伴走支援を行い、成長を続けています。
では、なぜ元々R&D部門の1チームで活動していたXD Studioを部門にする必要があったのか。部門長として立ち上げに携わった視点から、その原点と変遷、そして今後の展望についてまとめたいと思います。
立ち上げのきっかけは、2019年に遡ります。
私は2006年にTISに新卒で入社し、SEやPMOとして数多くのシステム開発に携わってきました。そして、2019年にヘルスケアと決済を組み合わせたコンシューマー向けアプリの立ち上げに挑戦することになります。
当時、新規アプリ立ち上げの経験はほとんどありませんでしたが、自分なりに試行錯誤を重ね、良いサービスとなるよう尽力していました。
しかし、ユーザーに思うように使ってもらうことはできませんでした。機能面での独自性は作れていたものの、UXの作り込みが浅く、使い続けてもらうには至らなかったのです。
そんな折に、TIS初のUXデザイナーとして入社した加藤さんと出会います。加藤さんは、当時R&D部門のUXデザイナーとして事業企画の伴走から表層のデザインまで幅広い案件に携わっていました。
加藤さんとはすぐに意気投合し、アプリの現状や課題を基に、どうすれば長く使ってもらえるアプリになるのかを何度も話し合いました。
私にとって、UXデザインの考え方やアプローチに初めて触れる機会だったことを覚えています。
結果的にアプリは閉じることになりましたが、生活者向けにサービスを作る以上、開発力があっても「使い続ける意味」を設計できなければ、真に求められるものは作れない。そして、そのためにはデザインが重要であるという強烈な学びを得ました。
同時に、TIS全体でデザインの考え方やアプローチを取り入れていかなければ、いつか選ばれなくなる時が来るのではないかと危機感を覚えました。
TISは主にお客様から委託を受けてサービス開発する業態ですが、お客様の先にはサービスを利用する生活者がいます。
しかし、私自身、これまで数多くの案件に携わる中で、「これを開発することで、本当に誰かのためになるのだろうか」と時には疑問に思うこともありました。
また、事業会社で開発組織の内製化も進んでいく状況において、単にシステムをつくるだけでは、提供できる価値も小さくなっていきます。
その中で、ものづくりのプロであるTISが、デザインを新たなケイパビリティとして持つことができれば、お客様や生活者に対してより大きな価値を提供できるのではないか。
つまり、信頼できるSIerから、共創パートナーへの変化が必要ではないかと考えました。
私自身の原体験、TISとしての成長性、そしてデザインへの熱量と専門性を持つ加藤さんをはじめとした仲間との出会い。
これらが重なり合い、社内にデザイン部門を立ち上げ、TISのものづくりにデザインという新たなケイパビリティを加えていくという考えに至りました。
そこから、創業50年以上の歴史を持ち、5000名以上の社員が所属するTISで、初めてデザインに特化した部門を立ち上げることになりました。
ただし、新たな部門を立ち上げる以上、その役割や成長性を示すことが求められます。
そこで、TISの経営計画にも掲げられている「DXコンサルティング機能の強化」に対し、それを支えるケイパビリティとしてUXデザインを推進する組織を立ち上げることで経営陣と合意しました。
さらに、TIS全体のデザインケイパビリティをより早く、大きく向上させるため、連続的成長と非連続的成長の2つのアプローチを計画しました。
連続的成長 : TISにおけるデザイン専門組織の立ち上げ(XD Studio)
非連続的成長 : デザイン会社のM&Aによるデザインケイパビリティ向上の高速化
社内でデザイン専門組織を立ち上げ、着実に成果と成長(育成)を積み上げていくことは重要ですが、このアプローチだけではどうしても時間がかかってしまいます。そこで、TISの事業と親和性の高いデザイン会社を迎え入れることで、ケイパビリティの向上を早める取り組みも並行して進めていきました。
具体的には、業務システムのUI/UXデザインコンサルティングを手掛けていたFixelを子会社化することで、非連続的成長を実現する一手を推進しました。
XD Studioを部門として立ち上げられた背景には、これまでR&D部門で加藤さんをはじめとするデザインチームが、社内案件へのデザイン支援を通じて実績を積み重ねてきたことも大きく影響しています。
例えば、カタール国民向け省エネ促進プロジェクトでは、コンセプト開発や行動変容デザインなどを担当し、PoCの成功に貢献しました。このように、社会的意義の大きなプロジェクトでの実績も築いてきました。
また、チームには以前からデザイナーとして働いていたメンバーもいれば、エンジニアからデザイナーに転向したメンバーもいました。システム開発の専門性に加え、デザインによる価値創造を実現できるメンバーが集まっていたことが、組織立ち上げへの大きな後押しにもなっています。
そして、新たに発足したXD Studioでは「意味や価値を創造すること」を提供価値として位置付け、社内での事業支援だけでなく、社外クライアントへの伴走支援にも活動範囲を広げています。
社外クライアントとして初めて支援させていただいたのは三井住友カード様でした。以前からお付き合いがあり、当時デザイン面の課題が生まれていたこともあり、XD Studioへの支援依頼をいただきました。
XD Studioとして初のクライアントワークであり、チーム一丸となって取り組みましたが、正直なところ、当初は手探りで進める部分が多く、迷う場面も少なくありませんでした。
しかし、プロジェクトが進むにつれて、三井住友カード様からも、私たちXD Studioを「同志」のような存在として認めていただき、単なる受発注の枠を超えた関係を築けるようになりました。
結果として、三井住友カード入会サイトのリニューアルや、BtoB向けアプリデザイン、各種デザインレビューなど、多岐にわたる伴走支援を通じて、三井住友カード様のデザイン組織拡大に貢献することができました。
振り返ると、この経験を通して、現在もXD Studioが大切にしている「伴走支援」というスタイルが形成されたように思います。
支援をさせていただく以上、当然ながらお客様にとっての価値や利益をもたらす責任があります。そこに対する緊張感はあって然るべきものだと考えています。
しかし、発注者と受注者という枠にとらわれ過ぎると、良いものづくりはできません。同じチームの仲間として課題に向き合い、楽しみながら乗り越えていくことが、結果的に良い成果につながるのだと学ばせていただきました。
現在、XD Studioには約15名が所属しており、メンバーのバックグラウンドや専門性も多様です。
ビジネスやユーザーのゴールを深く理解し、UXデザイン、ブランディング、リサーチなどの専門性を、あらゆるニーズに活かせるメンバーが揃ってきています。
また、2022年の立ち上げ以降、社内外でさまざまなプロジェクトに携わり、社会や人々から愛される体験を設計し、事業成果へと変換することを続けてきました。
例えば、B.LEAGUEにおけるマーケティング戦略設計に向けたユーザーリサーチの伴走支援。
2028年に総入場者数700万人を目指す壮大な目標に対し、「机上の空論ではなく、顧客の声を深く理解し、効果的な施策を組み立てたい」というB.LEAGUE様の強い意思に共感し、XD Studioとして現地調査・20名以上のデプスインタビュー・分析・インサイトを基にした施策設計までを伴走支援しました。
観客がバスケ観戦に求めるものは何か、どんな不や喜びがあるのかを深く理解することで、ビジネスとユーザーのゴールを繋げるストーリーを、B.LEAGUE様と共に描くことができました。
例えば、トヨタシステムズでの新規事業アイディエーションプログラムへの伴走支援。
スポーツ領域での新規事業創出という新しく、難易度も高い挑戦に対し、彼らが主役としてチームの絆を深めながらアイデアを生み出す体験を提供するため、3ヶ月間のプログラムをオーダーメイドで設計し、伴走支援しました。
さらに、クライアントワークを行う上で、「一貫した体験を生活者や顧客に届けるための仕組み」としてデザインシステムの構築・運用にも取り組んできました。
これは一般的に想起される「スタイルやコンポーネントをまとめたもの」ではなく、XD Studioに所属するデザイナーやデザインプロセスへの基準や観点を示し、誰もがXD Studioらしい高い品質で提案を行えることを目的にしています。
これらはXD Studioが行ってきた活動の一例です。
お客様が必要とするシステムを開発するという従来の携わり方から、お客様と共にその目的自体からデザインする携わり方へと変化する中で、私たち自身も初めて経験することが多く、悩むこともありました。
しかし、この「生み出す苦しみ」を理解しながら、それでもより良い体験を描き、事業成長に貢献できる成果へ変換していくことが、私たちXD Studioが目指す姿だと考えています。
長く使われないサービスへの原体験、TISの未来、デザインへの想いと専門性を持つ仲間たち。これらが重なり合いスタートしたXD Studio。
改めて、私たちが重要視するのは「意味や価値を創造する」ことです。これは、つくるという手段にとらわれず、お客様や生活者が本質的に求めることは何かという目的からデザインする意思表明です。
2022年の立ち上げから2年が経ち、高いスペシャリティを持つ仲間が集い、さまざまな領域での伴走支援を続けてきました。
50年以上にわたって築き上げてきたシステム開発の実績と、お客様や生活者にとっての「意味や価値を創造する力」を併せ持った私たちだからこそできる支援の形があると考えています。
支援の相談もぜひいただきたいですし、もちろん、私たちと一緒に働きたいという方も歓迎しています。
今後も共創パートナーとして、泥臭く汗をかくことをいとわず、お客様とともに社会や人々から愛されるサービスを生み出し続けられるよう取り組んでまいりますので、どうぞご期待ください。