DMMではこの2年間、AI活用の検証に注力してきました。現在は、実務面でも明確にAI活用によるデザイン業務の生産性の向上が測定できるフェーズに入っています。
このタイミングで、あらためてデザイナーの価値を発揮する方向性を定義するべきだと考え、2024年にAI時代における「デザイナーAI活用人材ロードマップ」を設計し、人材戦略としてデザイン組織に向けて発信しました。
この事例では、そのロードマップの詳細をまとめています。
AI時代におけるデザイナーの役割の定義に悩んでいる組織は少なくないはずです。私たちの取り組みが、 一助になればという思いから、背景や考え方も含めて公開することにしました。
まずは、デザインに関わるAIツールの発展状況について簡単に整理しておきます。
ここ数年、デザイン領域でもAIツールの進化は著しく、画像生成、レイアウト提案、ユーザーテストの自動化など、今日では人の手で行っているデザイン業務へのAI搭載機能の追加が段階的に増えており、日々の業務への影響が見過ごせない水準に達しています。こうした状況において、単にツールを導入するだけではなく、組織としてどのようにデザイナーの役割や体制を再設計していくのかが問われています。
このようなツールの進化を受け、直近半年でも多くの企業でデザイン組織内のAI活用が一気に加速している様子を観測しています。
この変化を見越して、DMMでも2023年からデザイナー主導での技術検証と業務適用を推進してきました。
実際、いくつもの業務で効率化が進み、デザイン業務のあり方そのものが変わり始めていると実感しています。
デザイン組織の内製化を進めてきたマネジメントの立場としては、「社内にデザイナーを抱える意義」に改めて向き合う必要があると感じています。
DMMではこれまで「利益貢献するデザイナー」というスローガンを掲げ、制作にとどまらず、よりユーザー目線での事業成長を促す存在としてデザイナーを位置づけてきました。
DMMには本社機能であるDMM.comだけでも130名以上のデザイナーが所属しており、この時代の変化をチャンスとして、デザイナーの活躍の幅を広げ、さらなる価値と強さを手に入れていきたいと考えています。
私個人としても、これまでDMMで取り組んできた事業へのデザイン活用の価値を強く信じています。実際いくつもの新規事業立ち上げや、サービスグロースに取り組んできたことで年々、デザイナーが活躍する業務範囲は広がり、抽象度の高い課題から関わることができています。
事例1:DMM.com総合トップのリニューアルについて
事例2:「ユーザー理解から機能改善につなげる」DMMポイントクラブでのリサーチの進め方
事例3:グロース期のチームの目線を揃える。「DMMオンラインクリニック」でのUX整理
これらの積み重ねの先として、「AI時代の変化を捉え、DMMの環境を活かしながらデザインの価値を大きく広げる」組織文化の形成に挑むための、5ヵ年ロードマップの内容を説明させていただきます。
前述したように、DMMではいち早くAIの検証に取り組み、横断での枠組みを主催することで広く情報を提供してきました。社内各所から優良な事例を集め、そのナレッジを広げていく活動は現在も継続しています。
LLM生成AIのモデルの自然言語(とりわけ日本語)の理解が進んだことと、画像生成AIのモデルの表現力が増した事で活用シーンは広がり、デザイナーの業務工程の流れで連続的にAIを組み合わせられる事例が見つかってきました。
とりわけ、デリバリー的なデザイン業務がAIに代替できる代わりに、事業貢献を意識した提案活動に時間を割けるモデルケースが生まれたことは大きな一歩でした。
デザイナーが「なぜ、このデザインが課題に対し有効と考えたのか?」この提案という行為に苦手意識を持つデザイナーは弊社でも多く、その背景にある課題としてデザインが解決すべき「商材 / 事業(サービス) / 市場」の前提情報が不足しているシーンを数多く目にしてきました。
この助けとして、昨今のLLM生成AIの情報収集能力と推論プロセスの進化により、ハルシネーションの減少とプロンプトの工夫によるエビデンス収集が可能になり、デザインの前提となる情報の獲得に有効であることが分かりました。これはもう、活用しない手はありません。 加えて、技術進展は検証を開始した当初の2023年の私の予想を超えたスピードで進化しています。これからの更なるAIの進化を大きなチャンスとするためには、DMMデザイナー全員で少なくとも中期 (3年後)を考えながら走っていくことの必要性を感じています。 これらから導き出した2025年のテーマは「" 商材・事業・市場 " 理解をAIで強化し、中期洞察をインハウスデザイナーならではの視点で行う。」です。
また、これまでに次のような全社横断のプロジェクトを私が主催しています。
デザイン協議会:デザインチーム間連携 (評価推進文脈も統合)
デザイン教育分科会:教育推進 / 社内発信
デザインAI推進のプロジェクト:先進技術検証・導入 / 外部連携
このAI時代に向き合うために、これらの全てのプロジェクトに初めて共通テーマを置き、一致団結してもらうことを決めています。それほどに、AIはデザイナーの活躍のあり方を変容させる可能性があると感じています。
AIは、近い将来 AGI (様々な知的課題を解決できる汎用的なAI)に進化することが予想されています。昨今のAIの動きを見ると既にその片鱗を感じています。
きっと、AGIは優秀なアシスタントとして、デザイナーがこれまで理解することが難しかったことを分かりやすく教えてくれ、優秀な相談役となってくれるでしょう。そして、膨大な時間を要していた我々のイメージを形にする行為を短時間で代行し、さらに、多くの提案をしてくれるようになると思います。
このような優秀なアシスタント(AGIエージェント)の登場で、人はいらなくなるのでしょうか?
私はそうは思いません。プラットフォームを保有する企業のインハウスデザイナーの一人ひとりがパーソナライズされ、多様化するユーザーとのコミュニケーションを今以上に、デザインすることになると考えるからです。
その時に
1 ) 自分の思考を広げ見渡す視野を培い「サービスのアイデンティティのあり方を考え続ける」
2 ) 多くのデータから「この瞬間に何が起きてるか?」を把握し、AIに提案される次の一手を決めて指示する
3 ) 「この先、どうありたいか?」を指し示す
という立ち居振る舞いが「人」という存在に、必ず求められるはずです。
例えるならば「デザイナー皆が、大きなオーケストラの指揮者の役割」を担う仕事にシフトするということを予想しています。人にはこれまで培ってきた歴史と想いがあります。それ故に最後に意思決定するのは人間であると考えます。
しかし、その役割を担えるだけの準備と、自身の変化を怠れば、予想外に早く成長したAIを活用できずに、指揮者の座を降りるケースもあるかもしれません。
これらの準備として、「デザイナーがどのように価値を発揮していけば良いか」を推察し、今できる将来への人材投資計画として描いたものが、再掲となりますが下記の5ヵ年の「AI活用人材ロードマップ」です。
これに則り活動中の様々なアクション事例と、周囲の反応をご紹介させていただきます。
全社のリード層に集まってもらい横断プロジェクトとして活動しているAI推進プロジェクトや、デザイン部から支援している事業単位のAI導入のどちらでも、共通する反応が見られています。
2025年から2026年の動きのうち、とりわけ販促物領域の業務プロセス変化には強い関心を持ってもらえています。というのも、AIによる画像解析精度と、推論プロセスと合わさった解説能力向上を目の当たりにしているからです。
今後「このデザインで良いと判断できる客観的根拠」が合わさることで、AIの活用シーンが急激に増える未来が予想され、中には「齊藤さんの、AI活用人材ロードマップよりも、1年前倒しで市場が動くことすらあり得る」と危機感をもち、AI活用のモデルケース作りに日々トライいただいている方も増えてきています。
すでに、現場の業務においても、2026年以降に予想している現象に近い事例が生まれ始めています。
現在は「多くのUXのストーリーを、画一的なUIで平均的に解決」することが多いですが、一部のプロジェクトではAIにより「パーソナライズされたUIがリアルタイムに変化し、即時インタラクションの形で解決策をユーザーに提案する」というアプローチで、これまで技術的に難しかったビジネス課題へも、新たな解決への選択肢を増やす取り組みとして推進しています。
特筆すべき点としては「現状で集められるデータを関係部署協力のもと収集 / 分析+ビジネス課題の再整理」をした上で、それらとAI活用で解決可能なイメージを連結した上で、プロトタイプ化するプロセスを実践していることです。
結果、各プロジェクトや事業支援の現場で、事業所属 / 横断組織どちらの関係者からも賛同が得られ、中期を見通す視座を共有する活動が、新たな組織間コラボレーションの起爆剤となっています。
本アプローチはデザイナーのOJTの場としても位置付けており、選出したデザイナーと私自らが協業する形をとっています。その際、協業したデザイナー達は周囲のポジティブな変化を目の当たりにした驚きと共に、必要性を強く感じデザインプロセスのアップデートに、協業後もトライしてくれています。
2024年からの1年でも様々な変化を想定し、多くのトライを行ってきました。これからも、より多くの変化を我々デザイナーは経験していくことになるでしょう。
生成AIの台頭の以前よりDMMデザイナーの大半が在籍する、CTO渡辺が束ねるクリエイター(エンジニア/デザイナー)組織では、ビジョンとして「EVER-CHANGING」が掲げられています。
AI活用においてDMMのデザイン組織が良いスタートダッシュをできたのは、この組織文化が根底にあったからです。
これからも、この組織文化を大切にしながら、マネジメントとしてAI活用できる環境をしっかり整備し、スペシャリストとしてAIによる事業貢献のモデルケースを創出していきます。
DMMをデザインの力で大きく「EVER-CHANGING」し、大きな成長をDMMデザイナーの皆と得ていくことに、私自身とてもワクワクしています。
最後に、DMM.comには新しい時代のデザイン業務に挑戦していける土壌があります。もしご興味があれば、DMMのデザイン組織についてお話しの機会をいただけますと幸いです。